【李相日】邦画実写の興行収入1位! 歴史的ヒット作『国宝』を生み、映画の底力を見せつけた(Penクリエイター・アワード2025)

  • 写真:後藤武浩 
  • スタイリング:増井芳江
  • ヘア&メイク:渕 直志(kief)
  • 編集&文:久保寺潤子
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始まりは2017年——「Pen クリエイター・アワード」は、あらゆるジャンルのクリエイターへ敬意を表し、功績をたたえてきた。第9回となる25年は、5組の受賞が決定。そのひとりである、映画監督の李相日は、歌舞伎という伝統芸能を題材に、日本だけでなく世界を熱狂させた。

Pen最新号、2026年1月号の第2特集は、『Pen クリエイター・アワード2025』。第9回目となる25年は、5組の受賞者を選出。彼らの2025年の活躍を振り返りつつ、その素顔に迫った。

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芸の道を徹底的に追求、『国宝』の圧倒的映像美に世界が熱狂

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李相日●1974年、新潟県生まれ。神奈川大学卒業後、日本映画学校に入学。卒業制作作品『青〜chong〜』(1999年)が話題に。『フラガール』(2006年)、『悪人』(10年)、『許されざる者』(13年)、『怒り』(16年)、『流浪の月』(22年)と常に高い評価を得ている。
シャツ¥242,000、ニット¥320,100、パンツ¥239,800、ブーツ¥294,800/すべてザ・ロウ(ザ・ロウ・ジャパン☎03-4400-2656)

興行収入173.7億円、観客動員数1231万を突破し(2025年11月25日現在)、邦画の実写映画としては22年ぶりに歴代1位記録を更新した『国宝』。その勢いは止まることを知らず、6月の公開から半年を経てなお、ロングラン上映が続いている。

今年5月、フランス・カンヌ国際映画祭の「監督週間」で世界初上映となり、大喝采を浴びた本作。トロントや釜山といった国際映画祭に出品され、26年には北米での公開も決まっているなど、海外での注目度も上昇中。現在はアメリカ・アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に選ばれている。

吉田修一の同名小説を映画化した本作の舞台は歌舞伎だ。任侠の一門に生まれながら歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げた主人公・喜久雄の50年を描いた一代記である。「この世ならざる美しい顔をもつ」喜久雄を演じるのは吉沢亮、喜久雄を引き取った上方歌舞伎の名門当主・花井半二郎は渡辺謙、半二郎の息子として、生まれながらに将来を約束された俊介を横浜流星が演じた。正反対の血筋を受け継ぎながら芸に身を捧げる喜久雄と俊介の鬼気迫る演技は、李相日監督の希望により1年以上の歌舞伎の稽古を経て体得したものだ。一流のスタッフで挑んだ圧倒的な映像美、「血筋か才能か?」という芸道を極める者の宿命をテーマにした本作は、2時間55分という上映時間を感じさせない濃密なものとなった。

李が日本映画学校(現・日本映画大学)の卒業制作で『青〜chong〜』を制作した1999年、日本映画は現在ほど活況を呈していなかった。2000年代に入り、李は『69sixty nine』や『フラガール』『悪人』『許されざる者』『怒り』と次々と話題作を世に送り出してきたが、その間、日本映画界は長らくアニメ映画が隆盛を誇ってきた。そして2025年、「『国宝』観た?」という口コミとともに、年代を超えて多くの観客が映画館に駆けつけた。今回のヒットを受けて監督は、「映画館でなにを見せるべきなのか改めて考え直す機会になった」と語った。娯楽としての映画本来の楽しさを思い起こさせてくれた李相日は、今後の日本映画界を照らす道しるべとなるだろう。

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