【ガンダムの生みの親の一人】巨匠・安彦良和の異色キャリアを辿る大規模回顧展開催。キャラクター初期案から東京限定イラストまで

  • 文&写真:はろるど
Share:
1.jpeg
『機動戦士ガンダム』 『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』 ©創通・サンライズ

『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインで世界に名を刻み、『アリオン』や『王道の狗』などでアニメ監督や漫画家として活躍する安彦良和の回顧展が、渋谷区立松濤美術館で開催されている。デビュー当初から最新作までの漫画原稿など、約半世紀に及ぶ仕事を紹介する展示の内容とは?

大学での学生運動を経て、アニメーターの道へと進む

2.jpeg
1章「北海道に生まれて」より、『遙かなるタホ河の流れ』(1966〜67年)展示風景

北海道遠軽町の農家に生まれた安彦良和は、小学生の頃に横山光輝や手塚治虫に影響を受け、自ら漫画を描きはじめる。1966年に弘前大学へと進学すると、スペイン内戦を題材にした長編『遙かなるタホ河の流れ』を完成させる。「政治の季節」の只中で学生運動に関わり、大学を退学処分に。行き場を失って上京した彼が目にしたのは、虫プロダクションのアニメーター募集だった。実技審査に提出した『遙かなるタホ河の流れ』が評価され、アニメーターとして歩み出す。

その後、フリーとなり、虫プロダクションの有志社員で設立したアニメ制作会社の創映社の作品にも関わった安彦。中でも重要作『勇者ライディーン』には、「劇画」と呼ばれる漫画のスタイルと、子ども向けのアニメのスタイルとも異なる、彼ならではの独自のキャラクター像を見ることができる。そして日本にアニメブームを巻き起こす『宇宙戦艦ヤマト』に絵コンテで参加すると、主要スタッフとして重用され、原画やポスターデザインまでを担うようになった。

ガンダムのキャラクターデザイン案から会場限定のイラストまで 

3.jpeg
『機動戦士ガンダム』 ©創通・サンライズ ※安彦がアニメーションディレクターを担ったのは、いわゆる1stの『機動戦士ガンダム』。『機動戦士Zガンダム』と『機動戦士ガンダムF91』は、キャラクターデザインのみでの参加。

社会現象を引き起こすほど人気を得た、『機動戦士ガンダム』に関する作品や資料が目立っている。ここではキャラクターデザインとアニメーションディレクターを担当(※)した安彦の仕事を、『機動戦士ガンダム』から『機動戦士ガンダムF91』までシリーズを通して紹介している。イラストラフや宣伝ポスター用イラスト原画、キャラクターの初期デザイン案のほか、東京展で初公開されるアムロとシャアとが向き合う描き下ろしイラストも見どころだ。

「ガンダムは基本的に喋らないでしょう?だからマスクを付けました」と語る安彦は、SF的なリアリティを盛り込んだモビルスーツのデザインも提案。アムロ・レイのキャラクターづくりでは、いわゆる美少年像とは異なり、等身大の若者の思わせるデザインを手掛けるが、当時色のついた髪の表現には否定的な声もあったという。また安彦の洗練されたイラストを追っていくと、鮮やかな色彩に目を奪われるが、そこにはアメリカン・コミックスの影響も見て取れる。---fadeinPager---

アニメーションの監督や漫画家としてもマルチに活躍!

4.jpeg
4章「アニメーターとして、漫画家として」展示風景。右に『巨神ゴーグ』に関する作品が並んでいる。

1980年代のアニメーションブームの中で、安彦はアニメーションの監督、小説の挿絵、漫画執筆と次々と新たな分野を切り開いていく。このうち『巨神ゴーグ』は、企画原案からキャラクターデザイン、作画まで、絵と物語に関わるほぼすべてに携わったもの。安彦が語るには「いまでこそ愛着はあるものの、当時はあまり受けなかった」というが、 テレビシリーズとしては異例の「描く監督」だからこそ実現した作品として大きく評価されている。

『ヴイナス戦記』 は、当初からアニメ化を狙って描いた同名の漫画を元にした映画だが、原作をそのまま映像化するのではなく、スタッフとともに新たな作品を作るという意気込みで臨んだ作品。安彦自らも原画を手掛け、「良いスタッフに恵まれ、現場の雰囲気も楽しかった」と振り返る。しかし興行的にはふるわず、また当時のアニメ界の動向と自身の方向性のずれを感じたことから、この作品を最後にアニメ制作から離れる決意をする。

安彦が語る、海外コミックと日本漫画と違い

5.jpeg
6章「安彦良和の現在」より、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の作品の前で話す安彦良和。(プレス内覧会時に撮影)

『古事記』を題材にした『ナムジ』や、旧満洲を舞台とする『虹色のトロツキー』など、歴史漫画家としても精力的に作品を発表してきた安彦。また『ジャンヌ』や『イエス』など、西洋史やキリスト教を題材とした作品にも挑んでいる。オールカラーで描き下ろされた『ジャンヌ』では、透明水彩の滲みを生かした柔らかな彩色が印象的だ。「海外のコミックは色が強く、それに比べて日本の漫画はヴィジュアル面で弱い。だからこそ色をしっかり付けたい」と、安彦は語っている。

約25年間漫画に専念していた安彦は、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』をきっかけに、再びアニメーションに携わる。本作では、テレビ版を原点としながら、詳しく語られなかった登場人物の逸話を細かに描いていて、自らも「若い人にガンダムを知るための手引きのような作品になった」という。総数約800点以上の作品と資料を通しながら、天賦の才能を持ちながらも、常に挑戦と努力を重ねる、「描く人」安彦良和の創作の軌跡をじっくりとたどりたい。

『描く人、安彦良和』


開催期間:開催中〜2026年2月1日 (日)
※前期:11月18日 (火)〜12月21日 (日)、 後期:12月24日 (水)〜2月1日 (日)
※会期中、 展示替えあり
開催場所:渋谷区立松濤美術館
東京都渋谷区松濤2-14-14
開館時間:10時〜18時 ※金曜のみ20時まで
休館日:月 、11/25 (火)、12/23 (火)、12/29 (月) 〜1/3 (土)、1/13 (火)
※ただし11/24、 1/12は開館
観覧料:一般 ¥1,000 
https://shoto-museum.jp