ケイシーケイシー(CASEY/CASEY)というブランドをご存知だろうか。
フランス・パリ7区のソルフェリーノ通りにショップを構え、世界中の有力セレクトショップ等に並ぶ人気ブランドでありながら、ネット上にはほとんど情報が見当たらない。「服が自ずと語るのだから、宣伝する必要はないと思っていた」とデザイナーのギャレス・ケイシーは話す。今回、6年ぶりに来日した彼にインタビューする機会を得た。謎に包まれていたフランスブランドの真髄を探ってみたい。
英国出身のギャレス・ケイシーがパリでケイシーケイシーを立ち上げたのは2008年。英国・ブライトン大学では美術や陶器などを学ぶうちに、やがて空間アート、そして人と人との関係性そのものに関心を抱くようになったという。
「人と人との間にあるもの——それが“服”だと思ったのです。最初につくったのはジャケットだったと思う。祖父がガーデニングをする時に着ていたジャケット。それを真似て仕立てたのが始まりでした。パンツも同じ頃につくったと思いますが、どちらが先だったかはもう覚えていませんね(笑)」

ケイシーケイシーの服は、シンプルで普遍的。それでいて着るほどに味わいが増し、日常にすっと馴染む。コレクションをつくる際に最も重視するのはなにか尋ねると、彼は即座に答えた。
「大事なポイントはひとつではありません。でも始まりは常にマテリアル(素材)です。生地を触りながら、そこからなにをつくるか考えます。既製の生地を買うことはなく、生地メーカーと一緒にオリジナルの素材を開発します。糸の選び方、織り方などを工夫して。生地が出来上がってから洗いをかけたり、染めたりもします。そうした工程を繰り返す私のアトリエは“ラボラトリー(実験室)”のようなものです」
色づくりにも独自の哲学がある。たとえば黒ひとつをとっても、ソリッドな黒ではなく、グリーンやブルー、レッドなどをわずかに混ぜ、シーズンごとに異なる“今季の黒”を表現しているという。

「私はデッサンをしません。生地を触りながら服をデザインしていきます。ときには過去の服をカットして新しいかたちを模索することもあります。4週間前にシングルブレストのジャケットをカットして、ダブルブレストに仕立て直しました。来年1月にはそのジャケットがコレクションに並ぶはずです」
ケイシーケイシーでは過去の人気アイテムをそのまま再生産することはほとんどない。ジャケットやコート、シャツなど、一見変わらないように見える服も、毎シーズン少しずつ進化している。愛用者が着るたびに新しさを感じるのはそのためだ。

「自分でつくったジャケットを3カ月ほど着ていると、“ここを変えたい”と思い始めるんです。服づくりは料理と同じです。季節によって素材や調味料を変えるように、コレクションも自然に変化していく。私は常にスタッフに“自分のEYE(眼)を近づけておけ”と伝えています。流行や外の世界を見るのではなく、自分たちの感覚や感情を見つめることが大事です。私は“自分にいちばん近い服”をつくり続けていきたいと思っています」
この春、「グラフペーパー 青山」10周年を記念して、ケイシーケイシーとのコラボレーションが実現した。両者の長年育んできた信頼関係の延長線上にある4型のカプセルコレクションで発表されると、大きな話題となった。
「ありがたいことに、いろいろなところから、コラボレーション企画の提案をいただきますが、毎シーズンのコレクションをつくるのに手いっぱいな状況で、なかなか実現できません。でもグラフペーパーとは2016年からの長い付き合いで、お互いのものづくりを理解し、リスペクトしてきた関係です。だからこそ生まれたコレクションだと思います」
時を経ても変わらぬ哲学と、常に更新を重ねる姿勢。その絶妙なバランスこそ、ケイシーケイシーの服を“普遍”たらしめているのだろう。
グラフペーパー 青山
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