自動車界のこれからのトレンドは、ひょっとしたらコンパクト化かもしれない。自動車会社の経営者のなかにも、そこに市場があると言う人もいる。使い勝手を考えると、大型化からの揺り戻しがきていても不思議ではない。

興味深かったのは、三菱自動車工業の「デリカミニ」。新型に乗ったとき、「メルセデス・ベンツからの乗り換えがあったりします」と開発責任者が教えてくれた。
2025年10月29日に新型になったデリカミニは、名前の通り、三菱のラインナップにおける最小サイズのモデル。660ccエンジンを全長3.3mの車体に搭載した軽自動車だ。

しかしーー「軽自動車だと思って開発していません」と、さきの開発者。軽だからこのぐらいでいい、なんて割り切って開発しているつもりはないそうだ。
全力投球で開発された“新世代のコンパクトカー”ということか。
「割り切りがよすぎると、消費者にそっぽを向かれます」
“軽自動車=低価格=それなり”って図式は排除したんだそうだ。

内容をみると、そのことが端的にわかる。ユーモラスなフロントマスクだけが特徴ではない。レーダーとカメラを使った走行支援システムと、安全支援システムが充実している。
全車速域における先行車追従走行機能はもちろん、死角に他車がいる場合、車線変更しないようクルマが操舵支援(そっちにハンドルが切れない)をする。

発進時の事故を防ぐために、ダッシュボードからカメラを起動すると、鼻先がちょっと出ていれば車両の両側が映像で確認できるし、前輪あたりの下部を透視映像で観ることが可能。
室内の機能は高く、リアシートは前後に320mmスライドする。どのシートもバックレスト可倒式なので、車中泊が好きなひとは車内をフラット化して、マットレスを敷けば2人でリラックスできる、というぐあい。
サーフボードやスキーも積めるし、リアシートをたためば、なんと27インチの自転車も立てて搭載可能だ。

Google搭載なので、エアコンの温度設定も「暑い」とか「寒い」とかで変えられる。それに、たとえばSpotifyをダウンロードしておけば、音声コマンドで好きな楽曲を聴ける。
日本の軽自動車は、機能を盛り込んでいくことを"高性能”の同義語ととらえてきたフシがある。そのためなかには、とってつけたような機能もあった。

デリカミニの場合、上に挙げた機能が、クルマの開発コンセプトと合致している。そのブレのなさがよい。
ドライブモードには「グラベル(砂利道)」や「スノー」が設けられていて、車体のロードクリアランスもそれなりに余裕があるし、サスペンションアームも比較的長め。
「オフロードでの走破性の高さは、三菱車に求められていること」という開発者のコンセプトの具現化だ。

走りの質感も高い。車体は、剛性アップとともにしなやかに寄与する構造接着剤の塗布面積を増やしたことで、びしっとしている。ドアの開閉音なんて、ちょっといい乗用車並み。
ステアリングや足まわりも改良されているそうで、そのことは、直進安定性の高さと、路面のうねりだろうと凹凸だろうとていねいに吸収する乗り心地から、すぐわかる。
今回乗ったのはターボエンジンで四輪駆動で、ほとんどの装備が標準でそなわる最上級グレード「T Premium DELIMARU Package」。価格は291万円(も)する。

ノンターボで前輪駆動で装備はやや簡略化されたベーシックグレード「G」は190万円台から設定されている。しかし今のところ、トップグレードの売れ行きがいいそうだ。
「軽だと思って買っているかたは少ないと思います」
三菱の開発者は「デリカミニは軽というより、あくまでもデリカミニとして買われています」と語る。
コンパクトカーのよさをフルに味わえるようなデリカミニだけに、予算を出し惜しみしないで購入するひとが、少なからずいても不思議ではない。
三菱 デリカミニ
T Premium DELIMARU Package 4WD
全長×全幅×全高:3395×1475×1815mm
車重:1050kg
ホイールベース:2495mm
659cc 直列3気筒
最高出力:47kW
最大トルク:100Nm
変速機:CVT(無段変速機)
4輪駆動
燃費:17.8km@L
乗車定員:4名
価格:290万7300円
www.mitsubishi-motors.co.jp/lineup/delica_mini/









