【アストンマーティン新型試乗記】狂おしく“疾走する哀しみ”のように、 秋の抒情が際立つ英国製V12のリアル 第233回東京車日記

  • 写真&文:青木雄介
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新たなV12ヘイローモデルとして復活した「ヴァンキッシュ」。

秋になると乗りたくなるのが、アストンマーティンのV12エンジン。四季を通じてとりわけ秋が似合う理由は、ニュアンスが豊かで深みを感じられるから。そんなV12エンジン搭載の新型「ヴァンキッシュ」に乗った。

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 パノラミック・ガラスルーフとビスポークインフォテインメントにより、快適性とラグジュアリーが同時に感じられる室内空間。

理想のドライバーは英国諜報員(ジェームズ・ボンド)といったら身も蓋もないんだけど、見た目が似合うという話ではない。この大排気量エンジンを、我が分身のように愛せるか、という点が大事なんだ。

アストンマーティンのV12はフロントヘビーだし、雨の日にはリアブレイクしやすくて気を使う。先代の「ヴァンキッシュ」や「DBSスーパーレッジェーラ」は、正直いつ豹変するか気が気じゃなかった。その点で、この新型は気の利くEデフを搭載したこともあって、アストンV12のやっかいな癖を華麗に克服していた。そう、時は満ちた。思う存分に800馬力超の大排気量エンジンを走らせる喜びが味わえるんだ。

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新開発の5.2LV12は低慣性ターボとブーストリザーブ機構で瞬時のレスポンスをもたらす。

エンジンはブロックやカムシャフトといった主要コンポーネントを刷新。新しいターボチャージャーが備わった。アクセルを離すと圧力を蓄え、踏んだ時に再供給するブーストリザーブ機能を搭載したのね。これによりレスポンスがよくなり、踏み込みのトルクが出やすくなっている。個人的にはシフトをオートマチックにしたときの、よくしつけられたパワーマネージメントが最高によかった。

とにかくV12エンジンとの一体感が素晴らしい。思いのままにトルクがあふれ出てきて、かつ扱いやすい。峠でも重量感たっぷりに威厳あるボディコントロールを見せてくれるのね。二の矢が常に用意されてるようなキック感があり、舵角はタイトでオーバーステアリング気味に。滑らすならいま、というタイミングがつかみやすくなったぶん、安心して踏めるんだ。

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強化されたアルミシャシーに新搭載のEデフをを加え、質の高い操縦性を追求した。

この引き絞った弓の感覚は直線の加速でも発揮され、アクセルを踏み込めばメカニカルな作動感とともに胸を熱くさせる抒情が宿る。「泣きのV12」と呼びたい高回転時のエグゾーストノートは、そのトーンにレディ・グリーンスリーヴスを想うイングランド王ヘンリー8世(諸説あり)の哀しみが込められていると感じられる。

ブースト圧が抜ける乾いた吐息とともにV12のハミングがこだまする。レブリミットに向かうほどに、カムシャフトの動きが悲嘆(グリーフ)を刻んでるようでぐっときた。嗚呼、この狂おしさはまるで〝疾走する哀しみ〟。とりわけソウルに響く音色はアストンのV12エンジンならではだね。

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急勾配のカムテールと一体型デッキリッド・スポイラーを施すことで圧倒的な存在感が宿った。

そして走り去る後ろ姿は、一度見れば忘れられないインパクトをもたらす。ワイドなフェンダーとなめらかに落ちるルーフラインが、矢の軌跡のように流麗で圧倒的な存在感を放つ。リアコンビランプはダイナミックで、まるでこのクルマの存在証明を誇示するかのよう。マジで傑作すぎるね。

運転席の直前にある心臓と、リアを見せつけるスタイルは切っても切れない関係。唯一無二のエクスクルーシブとは、動と静の対比が生み出すコントラストにこそ宿る。年間生産は1000台に満たない、秋の道でこそしみじみ感じ入る、英国製V12のリアリティ。奥深いし、この高みに浸っていたいと思わされるんだな。

アストンマーティン ヴァンキッシュ

全長×全幅×全高:4,850×1,980×1,290mm
排気量:5,204cc
最高出力:835PS/6,500rpm
最大トルク:1,000Nm/2,500-5,000rpm
最高速度:345 km/h
駆動方式:RWD(後輪駆動)
車両価格:¥52,900,000

アストンマーティン ジャパン
www.astonmartin.com