創業以来、一度も途絶えることなく続く世界最古のマニュファクチュールとして名高いヴァシュロン・コンスタンタン。270年の歴史を物語るアニバーサリーモデルからは、ブランドの哲学とともに次代へのビジョンも浮かび上がる。ヴァシュロン・コンスタンタンの歩みを振り返るとともに、アニバーサリーイヤーを飾る限定モデルについて紹介しよう。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
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270周年を祝う、アニバーサリーモデル
①「トラディショナル・パーぺチュアルカレンダーレトログラード・デイト・オープンフェイス」
②「パトリモニー オートマティック」
左:トラディショナル・パーぺチュアルカレンダーレトログラード・デイト・オープンフェイス/自動巻き、18KPGケース、ケース径40㎜、パワーリザーブ約40時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水、世界限定370本。¥5,324,000 右:パトリモニー オートマティック/自動巻き、18KPGケース、ケース径40㎜、パワーリザーブ約40時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水、世界限定370本。¥5,324,000
「トラディショナル・パーぺチュアルカレンダーレトログラード・デイト・オープンフェイス」は、レイルウェイのミニッツトラックにドーフィン針とバトンインデックスを備えた正統派クラシックのスタイルに、レトログラード式ポインターデイトとオープンフェイスのパーペチュアルカレンダーを搭載する。レトログラードとオープンワークは、歴代においてメゾンが得意としてきたスタイルであり、これを270周年の記念モチーフであるギョーシェ彫りによるマルタ十字と幾何学模様で飾る。
2004年に発表された「パトリモニー」は、1950年代の薄型ラウンドモデルに着想を得たコレクションだ。270周年モデルの「パトリモニー オートマティック」は文字盤にマルタ十字を摸した幾何学模様をあしらい、裏側からのぞくキャリバーのブリッジは、2021年の「ヒストリーク・アメリカン 1921」のオリジナルモデルで使われていたコート・ユニークを施している。習得に500時間以上を費やす、270年を祝すモチーフだ。
270年間の技術の結晶を、現代の時計づくりに反映する
ヴァシュロン・コンスタンタンは1755年の創業以来270年間にわたり、一度も途絶えることなく時計製造を続ける最古のマニュファクチュールである。
メゾンを象徴するのは、1880年に採用されたマルタ十字のロゴだ。腕時計の精度を担うムーブメントパーツの一部からかたどられ、揺るぎないメゾンの時計づくりの哲学と伝統を継承する矜持を込める。近年も100年前のアーカイブを忠実に再現し、忘れられていた装飾技法を現代の職人の手で復活させた。そこで蘇ったコート・ユニークは270周年を祝す限定モデルを飾ったのである。
複雑機構とオープンフェイスを組み合わせた「トラディショナル・オープンフェイス」の3モデルも華々しく登場した。共通するオープンワークは1918年に初めて懐中時計で採用をされて以来、メゾンの重要な遺産として受け継がれてきたものだ。
技術の系譜を連綿と続ける一方、時計技術の限界にも挑戦する。キャビノティエ部門では、技術革新とクラフツマンシップを駆使した超絶時計を手掛ける。公開された数少ない作品には、57種の複雑機構を搭載する世界で最も複雑な懐中時計などがあり、まさに人間の叡知の結晶である時計の未来を示唆する。メゾンにとって270年は技術の探求の結果であり、それはこれからも続く。
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柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。
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