【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『会話の0.2秒を言語学する』
水野太貴 著 新潮社 ¥1,760
誰かと会話を行う際、多くの人は自分がやっていることを、特別意識はしないだろう。「会話の0.2秒」とは、ひとりの話者の話が終わり、別の話者が話し始めるまでの平均時間を指しているが、本書ではこのわずか0.2秒の間に起こっていることを、さまざまな文献を紐解きながら考察している。
本には綿々と続く先人の研究と、著者である水野太貴の広範囲なリサーチの結果が、言葉を尽くして語られているが、その内容を(野蛮にも)大まかに紹介すれば、次の通りだ。
相手が話す文の構造を解析し、使われた言葉も脳内で検索して、発話の意味を理解する。その間、相手の発するサインを読み取りながら、自分のターンが来たら「んー」や「あのー」といった「フィラー」も使って自分の会話権を確保しつつ、ジェスチャーなども交えて、応答内容を口にする……。考えただけでも頭がクラクラするし、0.2秒というわずかな時間に、どうしてそこまでの高度な処理ができているのか不思議である。
そして驚くべきことに、水野は言語学の専門家ではない。本業は編集者で、「ゆる言語学ラジオ」というYouTube・Podcast番組で話し手を務めているYouTuber。だからこそこの0.2秒の奇跡に、読者と同じ目線で驚き、ともに順を追って理解を進めていくことができるのだ。これが上から目線の専門家であれば、こうした「すごいでしょ? すごいよね!」といった共感は起こらない。
この本を読んだ読者は、身の回りの風景が違って見えてくるだろう。「あたりまえ」の中にこそ、奇跡があるのだ。そしてその面白さを、熱を込めて誰かに語ることにより、それはみんなの「面白い」につながっていく。そうした「面白い」の輪が広がる好著である。