ロレックスの腕時計はなぜ高品質なのか? 時計ジャーナリスト並木浩一が6つの「卓越性」を解説

  • 写真:宇田川 淳
  • イラスト:コサカダイキ
  • 文:並木浩一
  • 編集:倉持佑次
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ロレックスの人気を裏打ちするのが、進化を続ける卓越性だ。その現在形は、いまどの地点にあるのか。腕時計ジャーナリストである並木浩一が6つの視点で論証する。

2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。

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①【ムーブメント】すべてを自らつくる、徹底した開発哲学

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ロレックスは、ムーブメントの品質向上のために努力を惜しまないマニュファクチュールだ。自社ムーブメントを単に製造するだけでなく、素材から製法までゼロ地点から構想。シリコン製の「シロキシ・ヘアスプリング」や、脱進機の構造を一新した「ダイナパルス エスケープメント」など、圧倒的な実力を物語る技術が並ぶ。

右の画像のバランスホイールでは、計時精度に不可欠な重要部品であるヒゲゼンマイに、自社で設計・製造するパラクロム・ヘアスプリングが使用されている。これは2005年に発表された、ニオブ、ジルコニウム、酸素からなるロレックス独自の合金だ。磁場の影響を受けにくく、温度変化にさらされても安定性が高く、耐衝撃性と耐蝕性にも優れている。青色は、永続的な性能を象徴する陽極酸化処理を施しているためだ。バランスをとるために内周に配されたマイクロステラナットも、特許取得の機構である。

②【素材】特別な輝きを放つ、ロレックス専用の合金たち

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ケースやブレスレットに用いる金属も、自前で決定するのがロレックス流だ。たとえばステンレス・スチールも、1985年以来、ロレックスは耐蝕性に優れるグレード904L系の高性能スチールである「オイスタースチール」を採用している。強度を最大限に高めるために顕微鏡で検査し、不純物を取り除く過程で合金の力学特性を向上させる。さらに研磨技術者の専門技術で独特の輝きを引き出して、初めて完成する素材だ。

イエローゴールドは最終成形までの作業の全段階を見極めて品質を担保するために、ジュネーブのプラン・レ・ワットにある自社鋳造所で製造している。2005年から採用するエバーローズゴールドも、ロレックスにより開発され、自社鋳造するピンクゴールド合金である。正確な配合は明らかにされていないが、20%の銅、パラジウムとインジウムが含まれているとされ、深みのある美しい色合いを実現しているのである。

③【ケース】世界初の防水ケースが切り開いた、新時代の幕開け

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ロレックスの代名詞であるオイスターケースには、防水性・防塵性を高める技術が駆使されている。1926年に考案され特許を取得した世界初の腕時計用防水ケースであり、ベゼルとバックケース、ミドルケースにねじ込まれたリューズから構成される独自の構造は、時計史の流れを大きく変え、防水性能の新基準を打ち立てたのだ。一方スタイルは、複雑な関数に基づくモディファイが常に意識され、非ユークリッド幾何学的な曲線と曲面による原デザインの読み直しで洗練度を高めている。

④【ダイヤル】多彩なバリエーションが生む、選択の楽しみ

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ロレックスのダイヤルは多彩な技術で仕上げられ、カラーリングのバリエーションも豊富だ。同じ単色でもフラットなラッカー仕上げ、サンレイ、円心状のグラデーションを描くオンブレダイヤルなど、豊富な選択肢がある。インデックスの種類もアップライトのバー、アラビア数字、ローマン数字、4本爪で留めたダイヤモンドセッティングなど。さらにマザー・オブ・パールやメテオライトといった希少な天然素材を使用したダイヤルも存在する。王冠マークの素材の違いも含め、楽しい迷いは尽きない。

⑤【ベゼル】100年近く愛される、フルーテッドベゼルの魅力

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フルーテッドベゼルは、そのパーツだけでロレックスを想起させる、腕時計史上でも屈指のアイコンだ。初めて使われたのは1926年の「ロレックス オイスター」であるから、まもなく100年を超える不滅のデザインでもある。当初はこの溝に実用的な意味があり、防水性能のためにケースにしっかりとねじ込むことを助けていた。53年以降はベゼルはねじ込まずに固定されているが、その形状で光を反射して輝きを放つ特徴的なシンボルとしての存在価値は、いまも変わらず重要だ。

⑥【ブレスレット】個性と耐久性が光る、特徴的なブレスレット

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ロレックスの各種ブレスレットは特徴的で、それぞれに異なる魅力を持つ。アイコニックなジュビリーブレスレットはしなやかさと耐久性を両立した、ドレッシーな傑作。ステイタスを象徴するプレジデントブレスレットにはセラミックインサートが内蔵されており、耐久性と装着感を向上させている。象徴的なのは、1930年代後半に開発された3列リンクのオイスターブレスレット(写真)の優秀さだ。昔もいまもロレックスは、時計そのものと同じくらい、ブレスレットへの意識が高い。

 

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並木浩一  Koichi Namiki

時計ジャーナリスト

1961年、神奈川県生まれ。雑誌編集長などを歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。本誌で「並木教授の腕時計デザイン講義」を連載。著書に『ロレックスが買えない。』など。

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