モデルとしてキャリアをスタートさせ、映像作品を中心に歩んできた俳優・杉野遥亮。彼が初舞台『夜への長い旅路』に挑んだのは4年前のことだ。幕が下りた日から、再び舞台に立ちたいという想いを胸に抱き続けてきた。
「前回の舞台が終わった時、なにかやり残したことがあるような後ろ髪を引かれる思いになったんです。物事の本質に迫る、簡単ではない内容の海外戯曲だったことも魅力的で、難しい舞台のオファーが届くことを心のどこかで待っていたところはあると思います」

杉野が好奇心に突き動かされて出演を決めた作品が、ヘルマン・ヘッセの最高傑作を舞台化する『シッダールタ』。古代インドを舞台に、人生に迷うひとりの男が悟りを開いていく姿が描かれる。
「精神世界や哲学的なことにも興味があるので、挑戦させてもらいたいと思ったんです。以前、ドラマ『罠の戦争』で共演して以来、事あるごとに連絡を取っている草彅剛さんが主人公を演じられることも、僕のなかではとても大きくて。『次は舞台で共演できるといいね』と言ってくださった時にはあまりイメージできていなかったのですが、言霊のように現実になったことに感動しました。草彅さんは僕とは違う世界を見て、多くの経験をされている大先輩。今回もいろいろなことを学ばせていただきたいと思っています」
本作で彼が演じるのは、シッダールタに魅了されている青年、ゴーヴィンダ。一度は袂を分かちながらも、生涯の友となる人物だ。台本を読み、「ふたりの板挟みになるような感覚になった」と語る。
「僕自身はシッダールタのように探究する生き方を好みますし、憧れもあります。でもなにかを拠り所にして生きたいと思うゴーヴィンダも理解できるんです。どんな舞台になるのかはまだわかりませんが、演出の白井晃さんと個別の稽古をしてディスカッションをする機会があったおかげで、不安な気持ちがかなり消えました。映像の仕事をたくさんしてきて、稽古は舞台だからこその楽しい時間だなと思いましたね。でもみなさんとの稽古が始まったら、緊張してしまうとは思います(笑)」
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大切なのは、内側の声にじっくり耳を澄ませる時間

ドラマ『しあわせな結婚』、映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』など、ジャンルの異なる話題作への出演が続くなか、出演作を決める際に一貫して大切にしていることがあるという。
「興味が持てることや、楽しそうだなと感じることを選択しようと思うようになったことは、大きな変化かもしれません。条件で選ぶのではなく、自分が最後までやり切れる想像がつくかどうかが、すごく大切です。以前はこの仕事が好きなのかわからなくなったり、悔しい気持ちを晴らしたいという思いを抱いたこともありました。自分のなかの理想と現実や、天使と悪魔がぶつかり合う感覚もあったのですが、30歳になるタイミングで自分を内観するなかで、それがひとつになってきたと思います」

杉野はいま、なにを求め、なにを心地よいと感じるのか。内側から聞こえてくる声に耳を澄ませる時間が、表現者である前にひとりの人間である自分を守ることにつながっているのだという。
「いろいろなことを感じ取れる自分でいるために、自然が多い場所に身を置いたり、友達と話したりしています。しんどい気持ちになった時期があるからこそ、ナチュラルになれる環境が必要なんですよね。たくさん働けるタイプではないことは自分でわかっているので、いいペースで仕事をしていきたいと思っています」

今年、デビュー10周年を迎え、パーソナリティを務めるラジオ番組「杉野遥亮の青春エントリーシート」もスタートした。
「周年であることはあまり意識していないのですが、お仕事をいただいて、こうして続けられていることに感謝しています。刺激が多い世界のなかで、自分というものをゴシゴシ磨かれてきた10年でしたし、これから先も楽しくなりそうな予感がしています」

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WORKS
舞台『シッダールタ』

ヘルマン・ヘッセの最高傑作を劇作・長田育恵、演出・白井晃、音楽・三宅純で舞台化。杉野は草彅剛演じる主人公シッダールタの生涯の友、ゴーヴィンダを演じる。11月15日より世田谷パブリックシアター、26年1月10日より兵庫県立芸術文化センターにて上演。
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映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』
余命宣告を受けた少女、萌と、彼女に告白された同級生、日向のまっすぐな恋を描くラブストーリー。芥川なおのベストセラー小説を、岡田惠和が脚本を手掛けて映画化。杉野は大人になった日向を演じ、切なくも希望を感じる作品に奥行きを与えている。全国公開中。
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ラジオ番組「杉野遥亮の青春エントリーシート」

学校の放課後をテーマに、青春や人生、人との関わりなど、“答えの出ないあれやこれや”について、リスナーやスタッフとトークを繰り広げるラジオ番組。青春が好きだという杉野の素顔を感じられるプログラム。文化放送にて毎週土曜、19時30分〜20時オンエア。
