【カニササレアヤコ『阿』】古典楽器でジャンルを越える、 雅楽芸人が紡ぐ新しい音楽のかたち

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『阿 A』

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笙を使ったネタで知られるお笑い芸人・カニササレアヤコ。早稲田大学卒業後、東京藝術大学で雅楽を専攻し、パリ国立高等音楽院でも学ぶ。タンゴにも挑む一方で、人型ロボットなどのアプリ開発を手掛ける多才な一面も。本作は待望の初アルバムとなった。

皇室の保護のもと、1200年以上にわたり日本で伝承されてきた雅楽において、やわらかで神秘的な和音を奏でる笙(しょう)。この楽器を平安装束で演奏するネタを披露しているのが、芸人・カニササレアヤコだ。「R-1グランプリ2018」で決勝に進出すると、同年の『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』にも初出演して爆笑をかっさらった。

実は彼女、2022年に東京藝術大学邦楽科に進学して本格的に雅楽を学び直し、いまでは芸人としてでなく、本名で本格的な雅楽の公演にも出演する、実力を持った音楽家でもあるのだ。

そして、藝大に入学してから構想・準備をしてきたというアルバム『阿 A』と『吽 UN』が遂にリリース。「阿吽の呼吸」という言葉があるが、もともと「阿」は口を開いた声、「吽」は閉じた声という意味で、対になることで呼吸、息のあった状態を表す言葉となった。そこから『阿 A』には動的な音楽を、『吽 UN』では静的な音楽を収めたという。

『吽 UN』で取り上げられた中世ヨーロッパの音楽は、笙と相性がバッチリなのは予想の範疇だが、バッハやドビュッシーまで演奏してしまう。だが本当に驚かされるのが『阿 A』のほうだ。彼女が小さい頃から親しみ、早稲田大学時代にはサークルで熱を上げたタンゴのピアソラまで笙で演奏しているのだ。ピアノも自ら多重録音した「ブエノスアイレスの夏」も凄いが、「リベルタンゴ」に至ってはなんと笙一本で吹き切った。そのほか、インドネシアの芸能ケチャ的な音楽に笙だけで挑んでみたり、自作のミニマル音楽を収録したりと、作編曲家としての才能も爆発。芸人らしいセンスを活かして、某ファストフード店でお馴染みの音をもとにつくった「17本のポテトのためのミニマルミュージック」という楽曲も必聴だ。とにかく凄い!

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カニササレアヤコ ナクソス・ジャパン/カニササレ・レコード MOSQ0001 ¥2,750