「少し寛大になれるんです」俳優・上白石萌歌が語った、谷川俊太郎の魅力

  • 写真:吉田 塩
  • 編集&文:佐野慎悟
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雑誌「Pen」で反響の高かった特集『みんなの谷川俊太郎。』を、再編集&新規収録ページで再構成。より読みやすく、携帯しやすい書籍スタイルでお届け。PenBOOKS『みんなの谷川俊太郎。』より、上白石萌歌さんのインタビューを抜粋して紹介します。

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上白石萌歌●2000年、鹿児島県生まれ。11年に「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを獲得し、12年にデビュー。“adieu(アデュー)”名義で歌手としても活動。25年12月に主演映画『ロマンティック・キラー』が公開。

寛大さをもたらす詩の力で、心の弁当箱を詰め替える

俳優の上白石萌歌が谷川俊太郎の作品を初めて手にしたのは、小学5年生の頃。両親からビジュアルブックの『あさ 朝』をプレゼントされた彼女は「朝のリレー」を読んで、すぐに詩の世界へと引き込まれたという。

「私は小学1年生から3年生までをメキシコで暮らした後に、4年生の時に地元の鹿児島に戻ってきたので、“メキシコの娘”が出てくる『朝のリレー』には、すぐに親近感を抱きました。日本にいた時は、地球の裏側にいる人のことを深く考えるようなことはありませんでしたが、ちょうど、ついこの間までメキシコにいて、いまは日本にいるという自分の状況が詩の内容とリンクして、丸い地球で朝のリレーをつないでいくというイメージが、とてもクリアに実感できたんです」

上白石さんは大人になったいまも、日課のように谷川の作品に触れているそうだ。

「私は寝る前に読書をすることが好きで、ベッドサイドには、常に谷川さんの詩集が数冊置いてあります。谷川さんの詩は、いつでも子どもの頃の感覚を思い出させてくれて、心をニュートラルな位置に戻してくれるんです。つい最近も、休みの日の朝に公園で谷川さんの詩集を読んでいたら、本の上に一匹の蜘蛛が上ってきたのを見て、少し幸せな気持ちになれたんです。普段なら蜘蛛を怖いと思ったかもしれませんが、谷川さんの詩を読んでいると、少し寛大な心もちになれるんです」

そして少し腹をたてる
あんまり簡単に
幸せになった自分に
(「おべんとうの歌」より)

上白石さんのお気に入りは、『これが私の優しさです』に収録されている「おべんとうの歌」。些細なことに喜びを見出していく冒頭からの流れが、彼女の心に“寛大さ”をもたらすのだろう。

「ただ、いちばん好きなところは、あまりに小さなことで幸せになった自分に腹を立てる“そして少し腹をたてる〜”という部分です。人は小さなことで幸せになれる分、同じくらい小さなことで傷ついたりもします。人の心ってお弁当箱みたいに詰められるものの量が限られていて、そこになにを詰めるかで、生き方が変わってくる。そういうことを考えさせられます。誰もが共感できる内容から始まり、話が進むうちに視点が変わって自分を俯瞰で見るようになり、最後には地球の重さを考えるというスケール感のある展開も、谷川さんらしくて大好きな部分です」

谷川の詩には、心の弁当箱をきれいに詰め替えてくれる、不思議な作用があるようだ。

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