創造の現場でクリエイターたちと“時”を刻む腕時計。そこには、生き方の哲学と美意識が宿る。音楽とファッション、デザインを横断しながら時代をつくってきたm-floのバーバル。彼が心を震わせたのは、オーデマ ピゲが生み出した“伝説のモデル”だった。今回は愛用する2本について想いを訊いた。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
VERBAL × オーデマ ピゲ「ジョン・シェーファー ミニッツリピータースケルトン」「ロイヤル オークコンセプト」
バーバル●アーティスト、音楽プロデューサー、デザイナー。1975年生まれ。99年にm-floのメンバーとしてデビュー。ファッション&ジュエリーブランドAMBUSHのCEOを務めるほか、LDHではグローバル戦略および音楽プロデュースを担当。
物語を纏う腕時計が、出会いの扉を開く
「この時計は、僕にとってのラッキーアイテムなんです」
音楽プロデューサーをはじめ、多才ぶりを発揮するバーバルが愛用するのが、オーデマ ピゲのカルトウォッチ「ジョン・シェーファー ミニッツリピーター スケルトン」。20世紀初頭にアメリカの富豪がオーダーした時計に着想を得たクッションケースが特徴で、1990年代にごく少数のみ製作された。
「オーデマ ピゲのブランドの歴史を深掘りしていくうちに、この時計の存在を知りました。ケースのデザインや機構、その背景にある物語に惹かれました」
ファッションも癖のあるものが好きだというバーバルは、腕時計も「どうしてこんなものをつくったんだろう?」と想像をかき立てられるものに魅了されるという。
「奏でる音の組み合わせで時刻を表現するミニッツリピーターは、現代社会では不要な機構です。でもそこにロマンやレガシーを感じて、ワクワクするんです」
オフィスに出勤する時は必ずこの腕時計を持っていき、デスクに置いて眺める。すると不思議と前向きな気持ちになれるという。
オーデマ ピゲ「ジョン・シェーファー ミニッツリピータースケルトン」(左)、「ロイヤル オークコンセプト」(右)
もう1本は、オーデマ ピゲの傑作「ロイヤル オーク」の30周年である2002年に発表された「ロイヤル オーク コンセプト」だ。
「傘下の複雑時計工房がつくった超複雑時計です。数年前に仕事で当時のCEO、フランソワ-アンリ・ベナミアスさんと知り合い、彼にこの時計が欲しいと相談したんです。そうしたら探してあげるよとなり、とんとん拍子で僕のところにやってきた。時計は重くて大きいけど、このケースの中にすべての技術が詰まっているし、ストーリーが好きで選んでいるから気にならない。ケース素材のアラクライトは航空宇宙産業のために開発された合金なので、宇宙へのロマンも楽しめます」
どちらも希少性が高いが、それがコミュニケーションを引き出す力となり、新たな縁を生む。「類は友を呼ぶって、本当にあるんですよね」とバーバルは笑う。音楽やファッションとも違った交流が、彼によい刺激を与えている。


