フェラーリが手掛けた世界でたった1台のクルマ「SC40」は、伝説的スーパーカーへのトリビュート

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Ferrari SpA
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フェラーリが2025年10月に「SC40」を発表。驚くのはこのクルマ、たったひとりの顧客のためにつくられたことだ。

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性能を犠牲にしない範囲でユニークなデザインに仕上げてある。

SC40は、フェラーリ・デザインセンターが、顧客のオーダーに基づいて開発したモデル。自動車用語でいうところのワンオフだ。

ユニークなのは、かつての「F40」という「伝説的なフェラーリのスーパーカー」(フェラーリのプレスリリースからの引用)へのトリビュート、という点。 

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1987年に発表され大きな話題を呼んだF40。

フェラーリF40は、1987年に発表された高性能モデルで、3リッターV8エンジンにツインターボを組み合わせた後輪駆動。腕に自信のあるドライバーのみ受け付ける。そんなクルマだった。

車名のFは言うまでもなくフェラーリ。40はフェラーリの40周年を意味していた。

大きな話題を呼び、478馬力(352kW)と当時では超ド級のパワーを誇る“路上を走るスポーツカー”を手に入れたい、というスポーツカー愛好者が大勢いた。 

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性能とともにスムーズなサーフェス処理や大きなリアウイングも特徴的だったF40。

レースを大々的に採り入れたデザインも、当時は斬新だった。POLYVANTIS社によるレクサン(ポリカーボネート)がドアウインドウとリアウインドウに採用されていた。

ドアウィンドウは通常の巻き上げ式でなく、小さなスライド式の開口部があるだけ。

リアウインドウからエンジンが見えて、さらにリアエンドはエンジンルームの熱気のため網。

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リアウインドウからもリアのランプの間からもエンジンが見えたF40。

そこから2本の排気管と、その間からはターボチャージャーの圧を抜くウエイトゲート用の排気管と、3本出しというのも、まるでレースカー。

今回のSC40は、そびえ立つようなリアウイングやドアのところの黒いエアダクトなど、F40を思わせる特徴を持つ。

素材も同様。徹底的に軽量化をめざしたF40はカーボンファイバー、カーボンケブラー、アルミニウムを内外装に使っていたのにならい、今回、カーボンケブラーを「再開発」したのだそう。 

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SC40のテールエンドもそこはかとなくF40のイメージをもつ。

SC40の車体色は特別に開発された白色で、太陽光線で美しく車体に陰影をつけるとともに、「内部のケブラー素材を連想させる色」とフェラーリではしている。 

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エンジンの整備性のよさがリアルスポーツカーでもっとも大切、というのがフェラーリの主張。

SC40のプロジェクトの始まりは明らかにされていないけれど、「296GTB」をベースに“それらしい”クルマに仕立てようという企画じたいがおもしろい。

SC40の車名にあるSCは「スクデリア」と「コルセ」だろうか。ふたつをつなげて英語にするとレーシングチームとなる。

ただしスクデリアコルセはランボルギーニが使っていて、フェラーリの場合はスクデリア・フェラーリなので、厳密に追求されていないのかもしれない。

フェラーリでは、「スペシャル・プロジェクト」として、顧客の要望に応えて、特別なモデルを開発するプログラムを展開してきた。 

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過去のワンオフであるSP48ウニカ。

直近では、23年の「SP8ウニカ」(F8スパイダーベース)や22年の「SP48ウニカ」(F8トリブートのV8搭載)など、いくつものワンオフがスペシャル・プロジェクトとして手掛けられている。

そもそも歴史をたどると、レースをビジネスの核にすえるフェラーリは、ごく少数のスポーツカーを、限られた顧客のために生産してきた。

なかでもよく知られているのは、54年の「375MMイングリッド・バーグマン」。

フェラーリを好んだ映画監督のロベルト・ロッセリーニが妻である女優のイングリッド・バーグマン(「凱旋門」など)ために注文したモデルだ。

ピニンファリーナが375MMをベースに、リアが長くてそこにテールフィンのついた独特のボディをデザインした。

当時はピニンファリーナとスカリエッティが、主にフェラーリのスポーツカーの車体を製作していた。

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SC40のコクピットは296GTBの高い操縦性を保っている。

いまはデザインも社内。内部のメカニズムも複雑で、そうせざるをえないのかもしれない。

フェラーリ・ジャパン

www.ferrari.com/ja-JP