振付芸術の祝祭「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」がソウルで初開催!

  • 文:植田沙羅
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2022年より世界各国で開催されてきた、モダンダンスとコンテンポラリーダンスの祭典「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」。今秋は初めて韓国・ソウルを舞台に、国際色豊かで多岐にわたる作品を上演中だ。

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ソウルで初開催となる「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」。 ホスト国を代表するホ・ソンイムは、ベルギーのコンテンポラリーダンスの教育機関「パフォーミングアーツ・リサーチ&トレーニング・スタジオ(P.A.R.T.S.)」の振付コースを卒業後、ヨーロッパや韓国のアーティストやカンパニーとパフォーマンスを行い、2022年には韓国文化体育観光部から表彰された実力派アーティストだ。今回は地球温暖化への警鐘を鳴らす『1 Degree Celsius』を手掛けた。 photo: © Van Cleef & Arpels - 2025 - Asia Culture Center 국립아시아문화전당

世界的なハイジュエリーメゾンであるヴァン クリーフ&アーペルが、振付文化を支援するメセナ活動のために、2020年に創設した「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」。創造・継承・教育の3つを指針に掲げ、アーティストやダンスカンパニーによる新たな創作活動や公演を支援し、コレオグラフィ文化の発展に寄与してきた。

その一環として2022年のロンドンを皮切りにはじまった「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」は香港、ニューヨークなど各地で大きな反響を呼び、昨秋には京都・埼玉の2都市で開催。コンテンポラリーダンスの公演に留まらず、写真展やアーティストによるトークイベント、ワークショップなども催され、数多の人々がダンスという身体表現の奥深さに心揺さぶられた。

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左:1941年につくられた「ダンサークリップ」は、プラチナやダイヤモンドの煌めきのなかに、目の覚めるような美しいルビーとエメラルドがあしらわれている。しなやかなバレリーナの手足を表現した匠の技が光る逸品だ。 右:『白鳥の湖』をモチーフにした「スワンレイク バレリーナクリップ」。ローズカットとラウンドカットの異なるスタイルのダイヤモンドと、直線的なバゲットカットのブラックスピネルが、バレリーナの動きに呼応するように揺らめく衣装までも忠実に再現。ともにヴァン クリーフ&アーペル コレクションより。 photo: © Van Cleef & Arpels

ヴァン クリーフ&アーペルがこれほどまでに情熱を注いでサポートを続けるのは、ダンスとの深いつながりこそが、メゾンの歴史を語る上で欠かせないからだ。1906年、パリのヴァンドーム広場にブティックをオープンしたヴァン クリーフ&アーペル。創業者のひとりであるルイ・アーペルは熱心なバレエ愛好家で、甥のクロード・アーペルを引き連れては、ブティックからほど近いオペラ・ガルニエに足繁く通っていた。

1941年には、こうしたバレエへの敬愛が「バレリーナ クリップ」としてかたちになった。カラーストーンに彩られたチュチュ姿の美しいダンサーが、アラベスクやジャンプ、アントルシャなどお馴染みのポーズを決めた優美で愛らしい作品は、メゾンのシンボルとしていまなお愛され続けている。

そしてクロード・アーペルが、ニューヨーク・シティ・バレエ団の創設者で振付家として知られるジョージ・バランシンと出会ったことがきっかけとなり、1967年には宝石にオマージュを捧げたバレエ作品『ジュエルズ』が誕生した。ニューヨーク5番街に佇むヴァン クリーフ&アーペルのショーウィンドウで、ひと際眩い光を放っていた宝石からインスピレーションを得た作品といわれ、バランシンはエメラルド・ルビー・ダイヤモンドをテーマに、世界初の全幕物の抽象バレエをつくりあげたのだ。

こうした絆が礎となり、2007年からはロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス(現ロイヤル・バレエ&オペラ)へのサポートがはじまり、その年には『ジュエルズ』誕生40周年記念公演を実現。以後もダンスの世界との交流は絶え間なく続き、メゾンからは名高いクラシックバレエ作品を熟練の職人技で繊細に表現した「バレエ プレシュー ハイジュエリーコレクション」が生み出されている。

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初開催となるソウルでは、韓国で最も歴史ある舞台芸術祭とコラボレーション

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1955年にヨハネスブルグで生まれたロビン・オーリンは、振付芸術を通して南アフリカの困難な社会情勢を訴え続け、2015年にはフランス芸術文化勲章を受章。『WE WEAR OUR WHEELS WITH PRIDE』は南アフリカにおけるコンテンポラリーダンスの旗手となったカンパニーのダンサーと、シンガーのアネリサ・ストゥールマンとつくり上げた作品で、南アフリカの不屈の精神に賛辞を捧げている。 photo: © Van Cleef & Arpels SA - Jérôme Séron

今回で6回目を迎える「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル」は10月16日から11月8日にわたり、ソウル市内の複数の会場を舞台に幅広いテーマやジャンルの作品が上演されている。ここ数年にわたり、「ダンス リフレクションズ」は韓国で最も歴史ある国際舞台芸術祭「ソウル・パフォーミングアーツ・フェスティバル」とのコラボレーションを続けてきたが、今回の祭典でも共同パートナーとして参画。韓国の振付芸術との文化交流や対話の機会が育まれ続けていることも感慨深い。

なかでも注目したいのが、2023年よりソウル・パフォーミングアーツ・フェスティバルの提携アーティストを務める、ホ・ソンイムによる作品『1 Degree Celsius』だ。7人のダンサーの動きとともに、大気温度上昇の調査データを用いてつくられた脈打つような音や、地球の気温上昇と連動した照明デザインなどが融合し、地球温暖化への反省を促す社会的な作品だ。

ほかにもダンスを通じて、世界各地の伝統文化や現代を生きる人々の想いを直観的に感じられるプログラムがラインアップ。南アフリカ出身の振付家ロビン・オーリンによる『WE WEAR OUR WHEELS WITH PRIDE』 では、1970年代の南アフリカに存在したズールー族の人力車の車夫にオマージュを込めてダンスを構成。アパルトヘイト真っ只中の時代でもなお喜びにあふれる人生を渇望する姿を、歌やステップでエネルギッシュに表現する。

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アフロ系民族の影響を受けたダンススタイルを独学で築き上げ、ホフェッシュ・シェクターなどの国際的な振付家のもとでダンサーとして活躍した後、振付家として活動をはじめたマルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ。『カルカサ』ではLGBTQなどさまざまな背景を持つダンサーとともに、熱いグルーヴを生み出している。 photo: © Van Cleef & Arpels - 2025 - Sommerszene Bernhard Mueller

そしてポルトガルの新鋭マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラによる『カルカサ』は、民族舞踊やフラメンコにヴォーギング、ハウスなどポピュラーダンスを融合させたオリジナル作品。絶滅した動物の骸骨を意味する「カルカサ」をタイトルに掲げ、植民地支配や独裁政権などの負の歴史を抱えるポルトガルの過去や、アイデンティティをも描き出した独創的な群舞になっている。10名のダンサーが織り成すダイナミックなステップとパーカッションのリズムが交錯し、次第に熱を帯びていく舞台の息づかいに圧倒されるだろう。

フェスティバルのラストを飾る『900 Something Days Spent in the XXth Century』は、工場跡地を芸術的な実験の場へと生まれ変わらせたS-Factoryで上演される。フランスの若き振付家ネモ・フルーレが90年代のユーロダンスのサウンドに身を委ねながら、現代の都市を取り巻く産業的な背景や、脱工業化時代を考察した意欲作だ。倉庫や駐車場などあえて都市空間を舞台にすることで、現代社会の問題を浮かび上がらせる本作は、上演場所により一期一会のパフォーマンスが生まれることからも、期待が高まっている。韓国や世界における振付芸術の歴史といまを体感できるこのフェスティバルは、新たな文化を育む上でも意義深いものになるはずだ。

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パリ国立高等音楽舞踊学校とP.A.R.T.S.で学んだダンサー兼振付家のネモ・フルーレは、劇場外の場所で上演する作品を多く手掛け、『900 Something Days Spent in the XXthCentury』でもパフォーマンスを通して人と空間の対話に重きを置いている。 photo: © Van Cleef & Arpels - 2025 - Philippe Lucchese

ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル

開催期間:10月16日~11月8日
TEL:0120-10-1906(ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク)
プログラムごとの開催場所や公演日時については下記公式サイトを参照
www.dancereflections-vancleefarpels.com