【人間がバイクに】腹ばいで泳ぐように走る。身体と機械が一体化する“未来の乗り物”が登場

  • 文:宮田華子
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アメリカ

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©Jake Carlini

バイクは「乗るもの」――その常識を、まるごと覆した製品が完成した。

アメリカ在住のコンテンツクリエイター&発明家、ジェイク・カリーニが生み出したのは、なんと「身にまとう」電動オートバイだ。スーツのように装着し、腕と脚の動きがそのまま加速や旋回になる。彼が公開した画像や映像から、身体と機械がひとつになる感覚がうかがえる。

廃材から生まれた「第2の身体」

発想のきっかけは、ある事故だった。カリーニが愛用していた電動自転車が、大破して使いものにならなくなったのだ。だが彼は修理ではなく、まったく別の方向を選んだ。「どうせなら、まったく違う乗り物にしてみよう」と考えたという。

彼は壊れたバイクの部品を丁寧に分解し、再構成を始めた。モーター、ホイール、バッテリーなどの主要パーツを取り出し、自らの身体に装着できるよう、バックパックや胸部ベルトのような形状に加工。こうして「ウェアラブル(=着用できる/身にまとう)・モーターバイク」は誕生した。

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©Jake Carlini

この装置は、腹ばいの姿勢で装着者の身体を支え、後輪のモーターで推進する。腕には簡易的なハンドルバーがつき、重心移動と手の動きで方向をコントロールする仕組みだ。最高速度は約20マイル(約32km/h)。カリーニ氏は動画内で、まるで空を泳ぐような姿勢で滑走してみせている。

「着る乗り物」というデザイン思考

この発明品の魅力は、単なる奇抜さではない。そこには、デザイン的にも深い問いが潜んでいる。

まず第1に挙げたいのは、身体と機械の境界を曖昧にする発想である。バイクに「乗る」ことは、外部の機械に自分を委ねる行為だが、カリーニの作品では、身体そのものが移動装置の一部となる。つまり、バイクが人を運ぶのではなく、人がバイクになる。これはデザインというより、身体拡張の実験に近い。

 

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©Jake Carlini

さらに、リユースと創造の関係にも注目したい。彼の作品は、壊れた自転車の再利用から生まれている。廃棄物を素材にし、新しい価値を生み出すという姿勢は、現代のサステナブルなデザインの文脈とも響き合う。身近な素材を扱いながら、未来的な造形をつくり出す「メイカー・アーティスト」としての感性が際立っている作品だ。

移動の未来を問い直す

もちろん実用性という観点から見れば、課題は多い。安全性や制御性、法的な問題を考えれば、現段階での公道走行は難しい。しかし、このプロジェクトが示すのは、モビリティの未来に対するひとつの問いである。

たとえば、軽量素材やウェアラブル技術がさらに進化すれば、身体に装着するタイプの移動装置が現実になる可能性もある。都市部の短距離移動や体験型アクティビティとして、「乗る」ではなく「まとう」移動体が選択肢に加わる日が来るかもしれない。

カリーニは自身の動画で「これはプロダクトではなく、発想のための装置だ」と語っている。つまりこれは、量産品でも乗り物でもなく、「移動とは何か」という概念を再構築するためのアートであり、デザインの実験なのである。

 

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©Jake Carlini

 

「着るモビリティ」という新しい原型

ウェアラブル・モーターバイクは、まだDIYの域を出ない。しかし、そこに宿る発想は、ファッション、テクノロジー、アートの境界を越える力を持っているのではないだろうか。

もしかすると「未来のモビリティとは」、私たち自身が走る機械になることなのかもしれない。

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YouTubeの自動字幕&音声作成機能を使用すると、日本語で視聴可能。

 

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授
アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。