【地中に埋まった家】トンネルでつながった、大地と一体化する“未来の住宅”に建築ファン注目

  • 文:山川真智子
  • 写真:Anna Dave
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メキシコ 

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photo:Anna Dave

本当に人間に適した家とはどんなものなのか。この問いの答えを教えてくれるユニークな住宅が、メキシコにある。「カサ・オルガニカ」と呼ばれるこの家のテーマは、人の居住空間と自然との調和的融合だ。ユニークな外観だけではなく、自然の力を利用した様々な工夫が、築後数十年を経ても多くの建築ファンを魅了している。

地中に埋め込み、自然に溶け込む住空間

「カサ・オルガニカ」は、1984 年にメキシコシティ郊外の静かな通り沿いに建てられた。外観は非常に風変りで、建築空間はすべて曲線で構成され、建物の半分以上は地中に埋まっている。外側は緑の植物に覆われており、自然の風景に溶け込んでいる。設計したのは、メキシコ人建築家、ハビエル・セノシアイン。有機的建築(建物が自然と調和し環境や人の生活と一体となることを目指した建築哲学。アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが提唱)のメキシコにおける先駆者でもある。研究者でもある彼は、大学で教鞭を執る傍ら、多様な建築の設計・建設を手掛け、キャリアの大半を、自然と調和した人間の居住空間の研究と実験に捧げてきた。

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photo:Anna Dave

トンネルでつながる内部空間、拡張工事でさらにユニークに

建物の玄関を入ると、すぐに螺旋階段が待ち構えている。階段を降りると、居間、食堂、台所を備えた共同生活空間と、クローゼットや浴室を備えた睡眠空間が広がっており、それぞれトンネルでつながっている。住居と大地を同一視するという意図から、床は砂色の柔らかなカーペットで覆われ、色彩的な連続性を持たせるため、壁と天井にも同色が使われている。

当初はセノシアイン家の私邸として使用され、寝室が1つしかなかったが、家族が増えたために拡張が必要になったという。増築部分は、外から見るとまるで「サメ」のようだと建設作業員が言い出したため、最終的にヒレが取り付けられた。さらに庭園に続く滑り台式のアクセスポイントも設置され、ユニークなアクセントになっている。

住環境は抜群! 自然の力を生かした高い機能性

奇抜なデザインの「カサ・オルガニカ」だが、実は住宅としての機能性は非常に高い。窓は南向きに配置され、冬の日照不足を防ぐ。また、自由な形状で地中に埋設された建物は風に対する抵抗が少なく、耐震シェルターとしての機能も備えている。家と一体化した大地は日陰を作り、大地を照らす太陽は明るさと暖かさを届ける。この大地と太陽の連携で家屋内の温度は年間を通じて18~22 、湿度も°C40~60%に保たれ、冬は暖かく夏は涼しい。これにより、呼吸器疾患や体の不調を予防することができるという。また、家の屋根を覆う草木や花々は、蒸散作用により酸素を生産。さらに汚染物質を排出し、塵や二酸化炭素をろ過する。その結果、「微気候」という周囲とは異なるここだけの気候がつくり上げられている。


「カサ・オルガニカ」は、2020 年に初めて一般公開されたが、現在は非公開となっている。これまで様々なメディアに代表的な有機的建築として取り上げられており、再公開を待ち望む声が断たない。

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山川真智子

●Webライター
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。