生産終了、18年の歴史に幕
日産自動車が現行「GT-R」の生産を2025年8月に終了した。エポックメイキングだったのは、高性能とボディデザイン。

07年に登場して以来、18年間つくり続けられた。これだけ長寿のスポーツGTは、なかなかほかの例が見つからない。
製造期間は長かったが生産台数はごく少数にしぼられていた。18年のあいだにわずか4万8000台がつくられたのみ。単純計算だと年産2666台。フェラーリよりもうんと少ない。
改良と希少性が支えた価値

希少性に加え、性能も毎年改良が施されて向上していた。最新のイヤーモデルに乗ると感心させられたのも、GT-Rの特長だった。
生産終了の理由として、CO2排出量削減など環境対応、衝突安全対応、安全支援技術などがある。18年という長いモデルライフからくるブランドとしての陳腐化を避ける目的もあったかもしれない。
古びないデザインと空力思想
陳腐化としたものの、ボディデザインは個性的で、古びて見えないのが大きな特徴だった。

シルエットは2プラス2のGTクーペに見えるが、いたるところにレースで培ったノウハウが適用されていた。
大きなウイング、ボディコーナーの整流板、ダウンフォースや冷却のための空気の大型インレットと、空気を抜くためのやはり大型アウトレット。
コンセプトから量産へ

デビューしてすぐにさまざまなレースに投入され、そこで得たノウハウを量産仕様にも採用。サーキットと一般道の近い関係性も、GT-Rファンには大きな魅力だった。

GT-Rのデザインが確定していく背景には、2001年の「GT-Rコンセプト」と03年までのケーススタディがあった、とは日産自動車デザイン部による振り返り。

東京モーターショーに「GT-Rプロト」として、量産型にかなり近いモデルが出展されて話題を呼んだのが2005年。
01年は「GT-Rコンセプト」だったので、コンセプトからプロトタイプへの移行は、日産自動車が市販化を本気で考えていることの証明と受け止められた。
スカイラインの名を外した理由
車名からスカイラインの名を落としたのは、かつてのようにセダンの派生車種ではないことを明確にしたかったから、と説明された。
「GT-Rというクルマ」。コンセプトメイキングについてデザイン部がしたためた一文が、GT-Rのポジションを端的に表現していた。

地面にはり付くようなスポーツカーデザインでなく、長距離も快適に走れるGT(フェラーリの12チリンドリやアストンマーティンのDBシリーズ)がコンセプト。
そのなかには、「GT-Rがレースで培ってきたヘリテージ(引用は原文ママ)を表現」(日産)とされる要素も入ってくる。
レース活動とヘリテージ

レースにおけるヘリテージは、1969年の初代「スカイラインGT-R」にさかのぼる。レーシングカーのパーツを使った直列6気筒エンジンの初代は、数々のレースで華々しい成績を収めた。
3代目になる89年の「スカイラインGT-R」も同様。国際ツーリングカー耐久レース「インターTEC」などで、レースカーとしても高性能ぶりを見せつけた。
94年の4代目スカイラインGT-Rは、サーキットレースに加えて、「ルマン24時間レース」や「パイクスピーク」にも参戦。96年のルマンでは総合15位という成績を残している。
99年の5代目スカイラインGT-Rも「ニュルブルクリンク24時間レース」などモータースポーツに参戦。市販車でも軽量化など特別な仕様が発売されて人気を呼んだ。
車名からスカイラインが外れた6代目も、「スーパーGT選手権」に積極的に参戦し続けた。
機能美としてのデザイン

GT-Rはつまり、実戦でデザインされたクルマなのだ。“いかにも速そう”でなく、リアルワールドで真価が証明された、真の意味で“機能的なデザイン”である。
スポーツカーでなにより重要な、軽量化と空力を最大限追求したデザイン。それをユニークなシルエットにまとめあげたのが、他では得がたいGT-Rの個性となっているのだ。
もちろん、機能とともに審美性が追求されている。
ディテールへのこだわり

キャビンの太いリアクォーターピラー、サイドパネル一体型で広く張り出したフロントウイング(フェンダー)、それに裁ち落としたような形状のリアエンド。
とりわけリアクオーターウィンドウまわりが印象的だが、実際にデザイン部内でもここの造型に力を傾注したという。
ひとつはこのガラスを台形にしたこと。もうひとつは、パネル部分に折り目にあたるラインを入れて、躍動感を生むのに成功したことがあげられる。
その後出てきた欧州のスポーツカーに、同種の要素を見つけることが出来る。そのたびに、GT-Rは早かったんだなと思わせられる。
走りと美を両立した存在

シルエットにとどまらず、細部にまで凝って、それを上手にまとめあげた手腕。走りとデザイン、ともに高いレベルだった出来映えに、いまもって感心させられる。
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