【新生ライカ】ボッテガ・ヴェネタのCEOが加入。最高級カメラブランドが描く、新時代のラグジュアリー戦略

  • 文:青山 鼓
Share:

 

Bartolomeo Rongone[46].jpg
ライカの監査役会メンバーに就任したバルトロメオ・ロンゴーネ。

2025年6月、ライカファンの間で話題になったニュースがある。高級ファッションブランド「ボッテガ・ヴェネタ」のCEO、バルトロメオ・ロンゴーネ氏がライカの監査役会メンバーに就任したのだ。グッチをはじめとする名だたるブランドで手腕を振るってきたラグジュアリー界のプロフェッショナル。その参画は、ライカがカメラメーカーから真のラグジュアリーブランドへと華麗に変身を遂げている何よりの証拠だろう。

エルメスから学んだ、上質な空間づくり

この変革のきっかけは2004年、実業家アンドレアス・カウフマン氏が経営に参画したことから始まる。当時のライカは経営的に厳しい状況にあったが、カウフマン氏は筆頭株主だった高級メゾン「エルメス」のビジネスモデルに着目した。

従来のカメラ販売店での取り扱いから、自社直営のブティック型店舗へ。「ブランドや利益率、顧客を自らコントロールしたい」というカウフマン氏の想いから生まれたライカストアは、いまや世界各地に展開されている。2024年時点で全世界に120店以上を数え、日本でも表参道に新たな旗艦店がオープン。シンガポールのラッフルズホテル内の店舗(現在はSOUTH BEACH QUARTERに移転)のように、ギャラリーやカフェを併設した「ライカの聖地」とも呼べる素敵な空間が各地に生まれている。

★sub1.jpg

ライカ表参道店。

「ライカストアに入る人は、最高のモノを求める仲間の一員になるんです」。カウフマン氏のこの言葉が示すように、直営店は単なる販売拠点ではなく、ブランドの世界観を五感で体験できる特別な場所なのだ。

ファッション界との素敵な出会い

ライカの魅力といえば、異業種とのコラボレーションも見逃せない。2014年にはイタリアの高級ダウンブランド「モンクレール」とタッグを組み、フランス国旗をモチーフにしたプレミアムレザーが美しい限定モデル「ライカX エディション・モンクレール」を発表。世界限定1,500台という特別感も手伝って、ファッション好きからも熱い視線を集めた。

sub3.jpg
スノーボードブランドともコラボレーション。【特別限定モデル】ライカ ゾフォート2 "Burton Edition"。

2020年には、これまた素晴らしいパートナーシップが実現する。イタリアのラグジュアリーファッションブランド「エルメネジルド・ゼニア」との協業で、上質なカーフレザーを編み込んだ「PELLETESSUTAⓇ」素材を使用した高級カメラアクセサリーコレクションが誕生。写真愛好家でもあるゼニアのアルティスティックディレクター、アレッサンドロ・サルトリ氏は「両社は卓越した品質への深いこだわりという共通の価値観を持っている」と語り、お互いのクラフツマンシップへの敬意が感じられるコメントを残している。

伝統と革新、絶妙なバランス感覚

製品づくりにおいても、ライカは実に巧妙なバランス感覚を発揮している。一方では2022年に名機「ライカM6」を約20年ぶりに再生産し、デジタル全盛の時代にあえてフィルムカメラを復活させる粋な計らいを見せた。「お客様が望む限り作り続けるが、需要が無くなれば生産を止めるだけ」というカウフマン氏の言葉からは、伝統を大切にしながらも現実的な視点を忘れない、したたかさが垣間見える。

一方で、2018年にはパナソニック、シグマとの間で「L-Mount Alliance」を締結し、オープンイノベーションにも果敢にチャレンジ。自社のLマウントを他社にも開放することで、ユーザーはより豊富な選択肢を楽しめるようになり、ライカは高級路線を保ちながら市場の広がりも手に入れた。最近では中国のDJIやヴィルトロックスなど新しい仲間も加わり、このアライアンスはますます魅力的になっている。

Leica_M11_Monochrom_Summilux_50_front_HiRes_RGB.jpg
モノクロに特化した、ライカM11モノクロームは根強い人気を誇る。

「Made in Germany」が紡ぐ、美しい物語

これらすべての戦略の根っこにあるのは、「ドイツ製の最高級品」という揺るぎない誇りだ。創業の地ウェッツラーの工房で受け継がれてきた職人の技と、余計なものを一切排除した美しい機能美。CEOのマティアス・ハーシュ氏が「私たちの『Made in Germany』の製品は、プレミアムなブランド体験を求める市場の期待にお応えしている」と語るように、ドイツ製であることそのものが、ブランドの大きな魅力になっている。

その成果はしっかりと数字にも表れている。厳しかった2004年から着実に復調を続け、2023/2024年度には過去最高の売上高を記録。特にアジア市場での人気ぶりは目を見張るものがあり、高級ブランドとしての地位がしっかりと根付いている。

ファッション界の風が吹き込む、新しいステージ

そして今回のロンゴーネ氏の参画は、ライカが次のステージへ向かう大切な一歩と言えそうだ。ファッション界の最前線で培った感性とビジネス感覚が、ライカのラグジュアリー戦略にどんな新しい風を吹き込むのか。きっとファッション・アート分野での新たなコラボレーション、店舗でのより特別な体験、SNSやオンラインコミュニティでの新しい取り組みなど、ワクワクするような展開が待っているはずだ。

150年以上の長い歴史の中で育んできた「卓越した品質と文化的価値」を大切にしながら、世界各地に約30箇所のライカギャラリーを展開し、著名な写真賞を主催するなど、文化的な発信にも力を注いできたライカ。ロンゴーネ氏の新しい視点が加わることで、こうした文化的な側面とビジネス戦略がもっと素敵に融合し、ライカブランドはますます魅力的になっていくだろう。

★sub2.jpg
ドイツのウェッツラーにある本社。ライカの歴史やフォトグラフィーを網羅したギャラリーを併設。

カメラという枠組みを軽やかに超えて、ライカという名前そのものが一つのライフスタイル、一つの美意識を表現するアイコンになりつつある今。写真を愛する人々にとって、ライカはもはや単なる道具ではない。美しいものへの憧れと、品質への妥協なき追求を象徴する、特別な存在なのだから。

ライカカメラジャパン

https://leica-camera.com/ja-JP