
『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』が現在、東京・上野の東京都美術館にて開かれている。ファン・ゴッホ美術館の作品を中心に、ゴッホの作品30点以上に加え、同時代や後に影響を与えた画家の作品など計75点が並ぶ展示の見どころとは?
フィンセントとテオ、そしてヨーからウィレムへと受け継がれる

27歳で画家を目指し、10年間で約2000枚の絵を描いたフィンセント・ファン・ゴッホ。生涯の間に売れた絵はわずかに過ぎず、広く世の中に知られることはなかった。そのフィンセントの画業を支えていた弟のテオが、兄の絵画やふたりで収集した作品に加え、18年にわたり交わされた手紙も大切に取り置く。しかし、兄の死からわずか半年後に自らも病に倒れ、遺産は妻ヨーとまだ幼い息子フィンセント・ウィレムへと引き継がれた。
ヨーは未亡人として作品の管理に尽力すると、展覧会への貸与や販売を通じて世に広めるだけでなく、書簡を整理・出版することでゴッホの芸術的評価を確立させようとする。そして第二次世界大戦後、フィンセント・ウィレムはコレクションをまとめて保持することの重要性を認識し、1960年にフィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立。2年後にはファミリー・コレクションが同財団の所有となり、1973年には国立フィンセント・ファン・ゴッホ美術館(今日のファン・ゴッホ美術館)を開館させた。
ファン・ゴッホ・ファミリーにゆかりの作品とは?

本展はフィンセントとテオ、ファン・ゴッホ兄弟のコレクションからはじまる。『フィンセント・ファン・ゴッホの肖像』を描いたラッセルは、パリでファン・ゴッホと出会い親しく友人となった画家。本人の自画像よりも似ているというこの肖像画は、ファン・ゴッホもお気に入りだったという。またモンティセリの『花瓶の花』は、兄弟のコレクションに計6点含まれている作品のうちのひとつ。ファン・ゴッホはパリで初めて彼の作品を目にすると、厚い筆触と鮮烈な補色の対比に衝撃を受ける。
モンパルナスのアトリエから見た雪景色を描いた、ゴーガンの『雪のパリ』にも注目したい。ゴーガンはヨーの手元に自分が所有するファン・ゴッホの作品が3点あるはずだと伝えると、ヨーはそれらを揃えて彼に送る。本作はおそらくそのお礼としてゴーガンからヨーに送られたものとされている。このほか、ファン・ゴッホが収集した挿絵入りの新聞の版画や、彼の作品の構図のみならず、自然や人間に対する見方にも影響を及ぼした日本の浮世絵なども紹介されている。---fadeinPager---
ファン・ゴッホの人生の旅路を追いながら絵画世界を存分に堪能!

オランダからパリ、アルル、さらにサン=レミやオーヴェール=シュル=オワーズへと、ファン・ゴッホの人生の旅路をたどるように絵画世界を楽しむことができる。『小屋』は、農村のわらぶき屋根の小屋を、オランダ時代ならではの暗がりの色遣いで描いたもの。画家の農民たちへの暮らしへのシンパシーも感じられる。一方のパリでは『モンマルトル:風車と菜園』のように、同地で身につけた軽快な点描技法によって、穏やかな春の一日を明るい色調で描いている。
『浜辺の漁船、サント=マリー=ド=ラ=メールにて』は、地中海沿い漁村を訪ねた際のスケッチをもとに、アルルで描いた一枚。空や海の淡い水色と船を象る力強いタッチに目を引かれるが、大胆な遠近法や平面的な色彩の扱いは浮世絵からの影響も見て取れる。最晩年の『農家』は、オーヴェールに移り住んで描いた作品で、ひなびた農家を明るい色調でまとめつつも、建物や空間は歪んでいるように見え、心象風景ともいうべき独特の世界が広がっている。
テオとヨーの家計記録が、ファン・ゴッホ研究にとって極めて重要な資料に

テオとヨーがパリで暮らした時から使われていた会計簿にも目を向けたい。もとは家計の収支やテオが兄に送っていた金額などが記されていたが、テオの死後、ヨーが定期的に美術品の売却をはじめると、いつ誰にいくらで売ったのかという記録も加えられる。そして近年の調査により、この会計簿から170点以上の油彩画と44点の紙作品が特定された。単なる家計の記録が、やがて家族のコレクションの歩みを伝える貴重な証しとなったのだ。
最後にファン・ゴッホと関連のある画家についても触れておきたい。『静物とミミの横顔』を描いたアムステルダム出身のデ・ハーンは、パリに出た後にテオと暮らし、彼の紹介でゴーガンとも知り合った画家。またシニャックはファン・ゴッホの友人で、彼と折り合いをつけながら一緒に制作し、サン=レミの療養院にも見舞う。作品に魅力があるのはもちろん、それを守り伝えた家族の物語に光を当てた、これまでとは違った面白さに出会える『ゴッホ展』を見逃せないようにしたい。
『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』
開催期間:開催中〜2025年12月21日(日)
開催場所:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
開館時間:9時半〜17時半 ※金曜日は20時まで ※入室は閉室の30分前まで
休室日:月、10/14、11/4、11/25
※10/13、11/3、11/24は開室
観覧料:一般 ¥2,300
※土日、祝および12/16以降は日時指定予約制。当日空きがあれば入場可能。
https://gogh2025-26.jp