
集中線やアニメ原画といった現代的な観点から北斎の魅力を掘り下げる『HOKUSAI—ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』が、東京・京橋のCREATIVE MUSEUM TOKYOにて開かれている。いまだかつてないような切り口と空間デザインによる展示の見どころとは?
『北斎漫画』から『富嶽百景』、さらにに初公開の肉筆画まで!

自らを「画狂人」と称し、90年の生涯で3万点もの作品を残した江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎。本展は50年に渡って『北斎漫画』を収集し、質と量ともに世界一のコレクションを築き上げた浦上満(浦上蒼穹堂) の全面協力のもとに行われている。出品総数は実に450点超も。『北斎漫画』全15編をはじめ、読本(よみほん)の挿絵、また代表作 『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』や晩年の傑作『富嶽百景』全3編・102図、さらに初公開となる肉筆画16図など、北斎の画技を存分に味わえる多彩な作品が公開されている。
読本とは、江戸時代に流行した物語文学で、絵をメインとする草双紙などに対し、読み物としての内容を中心としたもの。北斎は曲亭馬琴らとタッグを組むと、『椿説弓張月』や『新編水滸画伝』などにて読本の一大ブームを巻き起こす。このうち『椿説弓張月』では、平安時代の武将源為朝の奇想天外な物語を表していて、北斎は集中線や効果線、枠線などを飛び出す描写を次々と生み出すと、まるで動きを伴うような劇的な構図にて見る者を魅了した。
『北斎漫画』で描き尽くした森羅万象の世界

初編が刊行されて15編で完結するまで、64年の歳月を費やしたライフワークといえる『北斎漫画』がハイライトを飾っている。絵を学ぶ人のための図案集であった『北斎漫画』の図の総数は、驚くことに約三千数百図にも及ぶ。内容も動植物、市井の風俗、人体ポーズ、名所風景、建築物、古事・伝説、自然現象など多岐に渡っていて、森羅万象を描き尽くした北斎の集大成として差し支えない。
雀踊りをする奴さんや武術の稽古をする人々などを、数丁にわたって一つひとつ違ったポーズで描き分けた北斎。これらを全体的に眺めると、脳内にはパラパラ漫画のような連続したイメージが浮かぶという。また幽霊や妖怪など怪奇的なモチーフも得意とするが、植物画にも鋭い観察眼が発揮されている。桜や菊の花などをさまざまな角度から捉え、緻密に描きながら、類型的に並べて集めるという点においては、図鑑のような役割も果たしている。---fadeinPager---
新たに16図が見つかった『日新除魔図』とは?「The Great Wave」も公開

北斎が83~84歳の頃に「毎日、新たに魔物を蹴散らす」ことを願い、日課として獅子や獅子舞などを描き続けた『日新除魔図』。常に作画のトレーニングを欠かさなかった北斎の最晩年の作品として、現在、約200図が残されているが、新たに16図が見つかって浦上コレクションに加わった。やや余白をとりつつ、颯爽とした筆捌きで描いた洋犬風の獅子はコミカルで、肉筆ならではの迫力とともに、遊び心も感じられる。
日本の風景画史上に燦然と輝き、全46図からなる『冨嶽三十六景』は、意外にも世界で「The Great Wave」と呼ばれる「大波」こと「神奈川沖浪裏」のみ一点の公開だ。これは浦上が以前から、「『冨嶽三十六景』が中心ではない北斎の展覧会をやってみたい」という思いから実現したものという。本作が黄金比に近い構図であることを紹介する展示に目を向けながら、『富嶽百景』二遍「海上の不二」といった、同じ「波」を描いた作品と見比べて楽しみたい。
大胆な空間演出や会場限定のミニシアターも見どころ

空間全体を一つの舞台のように仕立てた大胆な演出にも注目したい。壁やタペストリーを彩る北斎の絵は、原寸をはるかに超えた大きさに拡大され、見る者を圧倒的なスケールで包み込む。一方でその大きさゆえに、普段は見過ごしてしまう細部の筆づかいも鮮明に浮かび上がり、小さな版画の緻密さを改めて目にすることができる。また北斎の創意や作品の妙を切り取った「北斎のしわざ」の解説パネルも充実していて、思わず足を止めてじっくり読んでしまう。
会場限定のミニシアターでは、『北斎漫画』の「雀踊り」「武芸(棒術)」、さらに『踊独稽古』をアニメーションにて上映。紙の上の人物たちが生き生きと踊り、動き出す瞬間を体験できる。「できるだけいいものを見てもらって、ちゃんとした評価をしてほしい」と浦上が語るだけあり、早い摺りでなおかつ保存状態の良い作品ばかりが展示されている。この新感覚の『HOKUSAI展』にて、誰もが知る北斎、けれどもまだ知らない北斎と出会いたい。
『HOKUSAI—ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』
開催期間:開催中〜2025年11月30日(日)
開催場所:CREATIVE MUSEUM TOKYO
東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6F
開館時間:10時〜18時
※毎週金、土、および祝前日は20時まで
※最終入場は閉館の30分前まで
会期中無休
観覧料:一般 ¥2,300
https://hokusai2025.jp