【斬新すぎる未来図書館】開いた本のように見える、“浮遊する建築”デザインに世界が注目

  • 文:青葉やまと
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遠くから見るとまるで、無造作にページが開いた巨大な本のよう——。海外フリーランスデザイナー兼建築家のティリナ・リヤナゲが設計した、公共図書館のコンセプトデザインが注目を集めている。知識の共有という図書館の役割を、大胆な造形で象徴。浮遊感さえ覚える斬新なデザインには、読書体験をさまざまな場所で実現する新たなアプローチが込められている。

巨大な本の形の図書館

図書館はほぼ左右対称な2棟に分かれており、それぞれが3層の構造となっている。各層をページの束に見立てることで開かれた本のボリューム感を表現し、屋根にもうねりを持たせページのたわみを表した。

さらに、屋根部分にさまざまな形状の小窓を連続して配置し、ページに書かれた文字を想起。こうして形作られる本の形は、本から得られる知識の限りない可能性を表現している。

屋根の周囲にはライン状の照明が設けられ、夜になるとひときわページの存在感が高まる。遠距離からでも一目見て、物語を紡ぎ出す書籍のような感覚を生み出す。国際的なデザイン専門サイトのヤンコ・デザインは、この建築を「生きた、呼吸する本の祝典」と表現している。

浮遊感を実現するカンチレバー構造

リヤナゲはユニークな造形を通じ、本に対する深い思いを建築全体で表現したかったという。しかし、こうした大胆な造形を実際の建築として成立させるには、高度な設計技術が必要だ。

めずらしい外観を実現する鍵となるのが、カンチレバー構造だ。一端のみを支持し、他方は宙に浮いた構造となっている。地上へ直接つながる支柱なしに浮いたような印象を実現し、建築全体に浮遊感を与えている。

各フロアは文字通り本の「ページ」として設計され、階を移動することはいわば、ページを読み進める動作にも例えられる。中央の垂直部分は本の背表紙に当たるが、これは左右の2つの棟をつなぐホールとなっており、吹き抜け構造で開放感を演出する。

 各ページ(階)に設けられたバルコニースペースでは、利用者は外に出て街の眺望を楽しむことも可能だ。また、地上階の屋外ラウンジエリアでは、太陽の自然光の下で読書に親しめるようになっている。これまで主に室内に限られていた読書空間を屋外にも広げ、図書館の閉鎖的なイメージを払拭する試みだ。

背表紙部分のホール上階には高架橋が横切り、両棟の行き来をサポートするほか、建物の内部から全体を見渡す憩いの場ともなっている。巨大な本の中を歩き回りながら、これまでにない柔軟な読書体験を提供する。

ファサードに込められた“樹”の意味

設計者のリヤナゲには、開かれた本の形状にもう1つの意味を込めた。正面から見るとこの図書館は、枝を広げた樹のシルエットにも見えるよう設計されている。

ヤンコ・デザインは、この樹が成長・知識・生命を表現するものだと分析している。書物を通じた学習という行為が、絶えず成長する植物のように広がっていくのだとの解釈だ。

さらに、宙に浮いたページ状のデザインにより、その下には地域の人々が集える屋根付きの空間が生まれる。個人単位で行う読書だけでなく、コミュニティでの交流を通じ知識を広げようというねらいだ。

単に本を読む場所ではなく、知識と人との関わりを問い直す場として、図書館建築の新たな可能性を示している。

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