中国広西チワン族自治区の山間部に、崖に張り付くような書店が出現し話題を呼んでいる。深さ280mの巨大な天坑(陥没穴、シンクホール)の片側は本で埋め尽くされ、もう片側は奈落への入り口となっている。極限の状況で読書を楽しめるこの「綿花天坑書店」は、2025年5月のオープン以来、すでに10万人が訪れる人気スポットとなった。
断崖絶壁が生み出す究極の読書空間
緑の森を抜け、崖に設けられた木製の遊歩道を進んだ先に、世界でも類を見ない書店が待っている。綿花天坑書店、別名「断崖書店」は、文字通り断崖絶壁に建設された書店だ。訪
問者が最初に目にするのは、自然が作り出した圧倒的なスケールの陥没穴だ。深さは280mあり、東京タワーの展望台のトップデッキ(地上250m)までがすっぽりと収まるほどだ。穴の幅は300mに及ぶ。
その崖の縁に、まるで張り付くようにして書店が誕生した。オープンスペースとなっている店内は、片側の壁一面に本棚が並んでおり、普通の書店を野外に持ち出したかのような不思議な印象を与える。
もう片側にはガラス窓もなく直接シンクホールへとつながっており、大自然のスケールとちょっとしたスリルを味わいながらの本選びが可能だ。中国・新華社によると、5月のオープンから8月11日までで延べ10万人が訪れた。
まるでAI画像? 観光客を圧倒
ニュースサイトのテックEブログは、「AI生成ではない」との見出しで本書店を紹介。断崖絶壁と書店という突飛な組み合わせに、AI生成の画像やフェイク動画ではないかと疑う人々も絶えない。実際には中国の国営メディアも報じているとおり実在の書店であり、現実とは思えないほど非日常的な光景が訪れた人々に強烈な印象を残している。
ある訪問者はTrip.comのレビューに、「とても特別な体験だった。崖の書店はとても文学的で興味深い」と記している。別のユーザーは「このような天坑地帯の計画には、創造性が求められる。特に断崖の書店というコンセプトは、特段の発想を必要としたことだろう」と発想の斬新さを評価した。
夜になると、書店は全く別の顔を見せる。深い闇に包まれた天坑に光が灯り、800メートルに及ぶ崖の遊歩道が闇に浮かび上がる。本を読む静かな時間から一転、3000人を収容できる天坑劇場として、壮大な光のショーが繰り広げられる。ある訪問者は、特に印象的だったのは夜の演出だったと振り返る。「19時50分のライトアップセレモニーはとてもカラフルで、訪れる価値がある」とTrip.comに感想を綴った。
景勝地を「見る」から「体験する」に変える試み
中国国営英語放送のCGTNは、「景勝地の自然の驚異と文化を融合させる使命」がその根底にあると紹介している。数万年かけて自然が作り上げた天坑という地質学的にも珍しい景観を、ただ眺めるだけの観光地にするのではなく、そこで本を読むという行為を付加。人間と自然の新たな関係を模索している。
山奥に位置しアクセスがやや難しいが、足を運んだ人々の満足度は高い。シンクホールを中心としたこの観光スポット全体の評価はTrip.comで5段階中4の「エクセレント」を獲得しており、「スタッフは地元の村人で、とても素朴で親切だった」という声が寄せられている。物珍しさだけでなく、地元の心温まる歓迎に癒やされる人々が多いようだ。
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