メルボルンの中心部に突如現れた巨大な岩の群れ。近づいてみると、空気で膨らませたインスタレーションであることに気づく。アート集団ENESSによる、日本の「岩組み」文化にインスピレーションを得た「IWAGUMI AIR SCAPE」が、8月17日まで同市プラーラン・スクエアを訪れる人々の目と耳を楽しませた。
広場にこつ然と現れた巨岩
遠くから見ると、そこには本物の巨岩があるようにしか見えない。しかし近づいてみると、空気で膨らませたバルーン式のインスタレーションだ。訪問者たちは巨大な岩の出現に驚き、その正体を知って2度驚く。
プラーラン・スクエアに設置された16個の巨大なバルーンは、まるで数千トンの岩石のような重厚な存在感を帯びている。デザインブーム誌によると、すでにシンガポールで展示されており、今回オーストラリアへと移設された。同国で公開は初となる。空気を入れて膨らませる巨大なバルーンに、花崗岩の写真をプリントしテクスチャー加工を施したもので、まるで大きな岩がごろりと転がっているかのような錯覚をもたらす。
デザインメディアのフレームによると、最も高さのある岩で14メートルに達し、70メートルほどのエリアにわたって展開する。ENESSがこれまでに手がけた期間限定のパブリックアート作品の中でも最大のスケールのものだという。
訪問者たちは巨大な岩の間を自由に歩き回り、岩の間を探索できる。最大10メートル幅の狭い通路や割れ目を探索でき、まるで峡谷を歩いているような没入感に浸る。触れてみると本物の岩と異なる軽いタッチであることに気づくが、そのギャップもまた鑑賞者を楽しませる要素となっている。
日没後はさらに豊かな表情に
日が暮れると、作品の表情は一変。魅力的な別の一面を見せる。昼間は本物の岩石と見間違うほどリアルな質感だが、夜には光り輝く姿へと一変する。
設置場所のプラーラン・スクエアに夕闇が迫ると、岩の内部に温かな光が灯り、表面を透かすようにして広場を優しく照らし出す。同時に、自然界の生き物から着想を得たサウンドスケープによる演出がスタート。この演出により、都市の中に生き生きとした幻想的な空間が展開する。
空間を移動する訪問者の動きに反応し、音は変化する。ENESS公式サイトによると、鳥、カエル、コオロギや、猿、コウモリ、そして山の小川といった音が不規則に鳴り響き、まるで動物や自然環境に囲まれているかのような感覚を生み出す趣向となっている。
音の演出にはもう一つ工夫があり、実は自然以外の要素をあえて組み込んでいる。街角で収録した雑音をかすかに混ぜることで、自然と都市環境の対比を際立たせた。自然をそのまま再現するのではなく、都市と自然が混在する独特の空間を作り上げている。
現地の見どころを取り上げるシークレットメルボルン誌によると、光と音の演出は、毎日午後5時から10時の時間限定プログラムだ。静的な昼の風景から動的な夜の体験へと、作品はがらりと変化する。
日本の「岩組み」に着想
メルボルンの人々を楽しませた本インスタレーション作品は、日本の繊細な美意識を取り入れている。
作品名にもなっているIWAGUMI(岩組み)は、日本独自の芸術様式だ。ENESS公式サイトは、アクアリウムの水景づくりの第一人者、天野尚氏が開拓した水中ガーデニングにおける石の配置法であり、シンプルさの中に調和と統一を追求したものだと解説している。
ENESSの創設者ニムロッド・ワイス氏は、シークレットメルボルン誌に対し、「岩は人類の文化において特別な存在だ」と語る。子供たちは岩を集めることに夢中になり、多くのアーティストたちが岩に着想を得ているほか、古代には人類が岩を崇拝してきた歴史がある。本作「IWAGUMI AIR SCAPE」は、地球や自然との太古からのつながりを想起させるものだとワイス氏は述べている。
環境への配慮も、IWAGUMIが放つメッセージの一つだ。フレームウェブ誌によると展示終了後、バルーン生地はすべてメルボルンのプラスチックリサイクル会社を通じて再利用される。また、技術的にも極力簡単に設置できるシステムとし、設置に必要なスタッフ数を削減するほか、飛行機での輸送による二酸化炭素排出量を抑えているという。自然への敬意は、作品のコンセプトだけでなく、その制作手法にも表れている。
IWAGUMIはメルボルンのプラーラン・スクエアで8月17日まで毎日公開され、訪れるオーストラリアの人々に都市と自然の新しい関係性を提唱した。
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