【廃校や鉱山跡も会場に】“あいま”をテーマにした『国際芸術祭「あいち2025」』が開催【Penが選んだ今月のアート】

  • 文:青野尚子(アートライター)
Share:

 

1_Kamala_Ibrahim_Ishag.jpg
カマラ・イブラヒム・イシャグ『My Two Neems』 2023年 photo: Waleed Shah

2010年から3年ごとに開かれている国際芸術祭。今回はアラブ首長国連邦出身のフール・アル・カシミが芸術監督を務める。テーマに掲げた「灰と薔薇のあいまに」は現代アラブ世界を代表する詩人、アドニスの詩からとったもの。

戦争の惨禍を目の当たりにした彼は破壊の先に希望を見出した。灰に象徴される終末論と薔薇に託された楽観論のどちらかひとつを選ぶのではなく、その「あいま」にあるものが複雑な世界を解きほぐすカギになる、そんな思いが込められている。

出展するアーティストは世界各国から60組を超える。今回はアル・カシミが拠点とする中東やアフリカ、中南米など、非欧米圏の作家を多数招聘していることが特徴だ。スーダンのカマラ・イブラヒム・イシャグの絵は内戦前に住んでいた家の木を描いたもの。グアテマラのマリリン・ボロル・ボールは先住民の陶器を黒いセメントが覆うようなオブジェをつくっている。現代の素材が伝統を覆い隠すように見える。ジャマイカにルーツを持つアメリカの作家、シモーヌ・リーは、アフリカ美術と紐付けられたフォルムを採用した作品などを制作している。

日本からは自らも狩猟・マタギ文化に関り、生命の根源や循環、記憶の痕跡を辿る永沢碧衣、先史芸術や文化人類学に関するリサーチをもとに制作している久保寛子、人類と鯨類や海との関わりに関心を持つ是恒(これつね)さくらといった作家たちが参加する。

会場は、愛知芸術文化センターのほか、閉校になった小学校や現役で使われている鉱山の工場といったユニークな場所も使われる。愛知県陶磁美術館など、愛知県で盛んな焼き物の歴史と交差するような場も。西洋の近代文明に偏重した社会に対して、アートが異なる価値観を示してくれる。

『国際芸術祭「あいち2025」』

開催期間:9/13~11/30
会場:愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか
TEL:052-971-3111(国際芸術祭「あいち」組織委員会事務局)
開館時間:会場によって異なる 
休館日:会場によって異なる 
料金:フリーパス一般¥3,500、1DAYパス一般¥2,100
https://aichitriennale.jp
※この記事はPen 2025年10月号より再編集した記事です。