これは押さえておくべき! リンドベリ展を堪能するための5つのポイント

  • 写真:吉田塩  
  • コーディネート:佐藤園子
  • 編集&文:井上倫子
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9月7日まで、東京で『20世紀北欧デザインの巨匠 スティグ・リンドベリ展』が開催されている。そこでの出展作品とともに、5つのポイントをキーワード別に紹介していく。

北欧ミッドセンチュリーデザインを語る上で外すことができない、スウェーデン人デザイナー、スティング・リンドベリ。テーブルウェアのみならずさまざまな作品を生んだ彼だが、作品を見たことがあっても、人物像を深く知る人は少ないだろう。スウェーデン・グスタフスベリの風景とともに、人物像、今再評価されるプロダクトの魅力を紹介しよう。

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リンドベリの魅力を知る、5つのキーワード

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現在販売中のグスタフスベリ社の製品。大きいサイズがティーカップ、小さい方がコーヒーカップ。それぞれソーサーとセットで販売されている。左上から順に、『アダム』『イヴ』『リブ』『ベルサ』『プルヌス』『レッド・アスター』。ティーカップ&ソーサー各¥22,000、コーヒーカップ&ソーサー各¥19,250(『プルヌス』のみ¥23,100)/すべて髙島屋日本橋店TEL: 03-3211-4111

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1. キャラのような表情豊かな「動物」たち

スティグ・リンドベリは、現在も人気の『スプリンガレ』をはじめとする動物の作品を多数手掛けている。展覧会のカタログの執筆を担当したマリーカ・ブーグレーンは、「彼は、まるで最小限の手の動きだけで、粘土の塊から人間や動物の本質を引き出したかのようです。その姿は、本来の力をそのまま内に宿したまま、造形されたように見えます」とその魅力を語る。また、のちにリサ・ラーソンの『小さな動物園』に影響を与えることになった『動物園』シリーズなども展開。彼特有の解釈が加わった、キャラクターのような姿に心が和む。

『「スプリンガレ」シリーズ / 大きな馬』 1958年 炻器/ストーンウェア

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スウェーデン語で「走る馬」の意味を持ち、チェスの用語でもよく使われる言葉「スプリンガレ」。ぽってりとしたフォルムが印象的だ。

『鳥』 1960年代 炻器/ストーンウェア

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ていねいに羽の模様が施され、よく見るとユーモラスな表情をしている。

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2. デビュー作となった「ファイアンス」

リンドベリが広く知られるきっかけとなったのが、1942年に開催された展覧会『春に描かれたファイアンス』だ。ファイアンスとは、イタリア・ファエンツァ発祥の繊細な淡黄色の土(素地)の上に白く不透明な錫釉をかけて焼成し、絵付の後に再度低温で焼く技法で、イタリアのマジョリカ焼き、オランダのデルフト焼きにも近い。彼はヴィルヘルム・コーゲとともにこの伝統技術の再現と絵付けに挑戦をした。スウェーデンは中立国だったとはいえ、時は第二次世界大戦の真っ只中。華やかな作品は人々の心に明るさをもたらしたに違いない。

『キャンドルホルダー付花入』1940年代 ファイアンス

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スウェーデンで欠かせないキャンドル立てにも、花瓶にもなるプロダクト。絵付はカーリン・グスタヴソンによる。

『手付大型花入』1940年代 ファイアンス

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リンドベリ自身が絵付けをしたユニークピース。展覧会をきっかけにGスタジオが設立され、ファイアンスの作品は世界中に輸出された。

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3. 創作の原点である「アートワーク」

リンドベリの創作の原点は彫像にあるという。Gスタジオ設立前の1941年には絵画と彫刻の展覧会を開き、晩年にも制作をした。多忙だった彼は78年のグスタフスベリ社での記念展覧会で、「できれば休暇を取りたい。そして、ただ彫像だけをつくりたい 」とコメントしていたほどだ。彼が好んだのは女性像や手を上げたポーズ、三つ編みの髪などのモチーフ。ザラついた陶土に光沢のある釉薬を使い、独特の質感がある仕上がりが特徴だ。「初期の彫像は、20世紀初頭のヨーロッパ美術の流れやピカソの影響を感じさせる」とブーグレーンは言う。

左:『黒髪の女』1937年 / 右:『頭に鳥を載せた女』1982年 炻器/ストーンウェア

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写真左がリンドベリの最初の彫像作品、右が最後の作品。最後の作品は彼の死後に焼く前のものが発見され、娘のマリータによって焼成された。

『髪を編んだ女』1940年代 炻器/ストーンウェア

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初期の作品。三つ編みの髪は彼が好んでつくったモチーフだ。

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4. 世界も注目した「テキスタイル」たち

副業としてテキスタイルもデザインしていたリンドベリ。NK百貨店のテキスタイル部門の責任者であるアストリッド・サンペとの出会いをきっかけに、1947年から70年代初頭にかけて、40種類以上のパターンやテキスタイルを手掛けていたという。ホテルや公共施設の内装に使われることもあり、アメリカなど世界各国からも注目された。この活躍を支えたのが、若い頃にストックホルムでテキスタイルを学び、特に織物に造詣が深かったリンドベリの妻・グンネルだ。リンドベリがデザインをし、彼女が手織りで仕上げた作品もある。

『「メロディー」/テキスタイル・プリント(部分)』1947年 綿

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麻の生地に手刷りされ、黒、緑など違うパターンも。現在も販売されておりスウェーデン人にとって馴染み深いテキスタイルのひとつ。

『ファンタジー・バード』1970年代 タペストリー 毛糸

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リンドベリがデザインし妻グンネルが制作、これが彼女の最後の作品となった。

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5. 大人の心もくすぐる「子ども」のための商品

スウェーデンでは1940年代にベビーブームが到来。グスタフスベリ社でも子ども向けの製品が多くつくられ、彼は30〜60年代に多数の子ども用食器セットをデザインしている。「彼のデザインは遊び心とストーリーテリング、ユーモア、そして子どもだけでなく大人にも語りかけるのが特徴」とブーグレーンは語る。絵本の挿絵も手掛け、ベストセラーとなった『ちゃっかりクラケール』(英語ではジミー・ポッターで有名)や、残念ながら出版・製品化には至らなかったが、スウェーデンを代表する名作『長くつ下のピッピ』の挿絵も描いていた。

『にぎやかな音楽バス(日本語版)』2004年 レンナート・ヘルシング 作 スティグ・リンドベリ 絵 いしいとしこ訳

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詩人・作家のレンナート・ヘルシングの本。リンドベリが挿絵を描いた児童書は5冊出版され、そのうちの2冊は日本語に翻訳されている(スウェーデン語版は1948年に発売。いしいとしこ訳)。 

『「ベイビー」装飾、「SB」モデル/子ども用食器セット:皿、マグカップ』1951年 ボーンチャイナ、デカル

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ボーンチャイナの子ども用食器。現在もヴィンテージ品が人気のシリーズだ。

『20世紀北欧デザインの巨匠スティグ・リンドベリ展』

関東
開催期間:〜9/7
開催場所:日本橋高島屋S.C. 本館8階ホール
営業時間:10時30分〜19時(19時30分閉場)※9/7は17時30分まで(18時閉場)

関西
開催期間:9/10〜21
開催場所:大阪髙島屋 7階グランドホール
開場時間:10時〜18時30分(19時閉場)※9/21は16時30分まで(17時閉場)

無休
料金:一般 ¥1,200
www.stiglindberg-exhibition.jp

 

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