9月7日まで、東京で『20世紀北欧デザインの巨匠 スティグ・リンドベリ展』が開催されている。そこでの出展作品とともに、5つのポイントをキーワード別に紹介していく。
北欧ミッドセンチュリーデザインを語る上で外すことができない、スウェーデン人デザイナー、スティング・リンドベリ。テーブルウェアのみならずさまざまな作品を生んだ彼だが、作品を見たことがあっても、人物像を深く知る人は少ないだろう。スウェーデン・グスタフスベリの風景とともに、人物像、今再評価されるプロダクトの魅力を紹介しよう。
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リンドベリの魅力を知る、5つのキーワード

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1. キャラのような表情豊かな「動物」たち
スティグ・リンドベリは、現在も人気の『スプリンガレ』をはじめとする動物の作品を多数手掛けている。展覧会のカタログの執筆を担当したマリーカ・ブーグレーンは、「彼は、まるで最小限の手の動きだけで、粘土の塊から人間や動物の本質を引き出したかのようです。その姿は、本来の力をそのまま内に宿したまま、造形されたように見えます」とその魅力を語る。また、のちにリサ・ラーソンの『小さな動物園』に影響を与えることになった『動物園』シリーズなども展開。彼特有の解釈が加わった、キャラクターのような姿に心が和む。
『「スプリンガレ」シリーズ / 大きな馬』 1958年 炻器/ストーンウェア

『鳥』 1960年代 炻器/ストーンウェア

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2. デビュー作となった「ファイアンス」
リンドベリが広く知られるきっかけとなったのが、1942年に開催された展覧会『春に描かれたファイアンス』だ。ファイアンスとは、イタリア・ファエンツァ発祥の繊細な淡黄色の土(素地)の上に白く不透明な錫釉をかけて焼成し、絵付の後に再度低温で焼く技法で、イタリアのマジョリカ焼き、オランダのデルフト焼きにも近い。彼はヴィルヘルム・コーゲとともにこの伝統技術の再現と絵付けに挑戦をした。スウェーデンは中立国だったとはいえ、時は第二次世界大戦の真っ只中。華やかな作品は人々の心に明るさをもたらしたに違いない。
『キャンドルホルダー付花入』1940年代 ファイアンス

『手付大型花入』1940年代 ファイアンス

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3. 創作の原点である「アートワーク」
リンドベリの創作の原点は彫像にあるという。Gスタジオ設立前の1941年には絵画と彫刻の展覧会を開き、晩年にも制作をした。多忙だった彼は78年のグスタフスベリ社での記念展覧会で、「できれば休暇を取りたい。そして、ただ彫像だけをつくりたい 」とコメントしていたほどだ。彼が好んだのは女性像や手を上げたポーズ、三つ編みの髪などのモチーフ。ザラついた陶土に光沢のある釉薬を使い、独特の質感がある仕上がりが特徴だ。「初期の彫像は、20世紀初頭のヨーロッパ美術の流れやピカソの影響を感じさせる」とブーグレーンは言う。
左:『黒髪の女』1937年 / 右:『頭に鳥を載せた女』1982年 炻器/ストーンウェア

『髪を編んだ女』1940年代 炻器/ストーンウェア

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4. 世界も注目した「テキスタイル」たち
副業としてテキスタイルもデザインしていたリンドベリ。NK百貨店のテキスタイル部門の責任者であるアストリッド・サンペとの出会いをきっかけに、1947年から70年代初頭にかけて、40種類以上のパターンやテキスタイルを手掛けていたという。ホテルや公共施設の内装に使われることもあり、アメリカなど世界各国からも注目された。この活躍を支えたのが、若い頃にストックホルムでテキスタイルを学び、特に織物に造詣が深かったリンドベリの妻・グンネルだ。リンドベリがデザインをし、彼女が手織りで仕上げた作品もある。
『「メロディー」/テキスタイル・プリント(部分)』1947年 綿

『ファンタジー・バード』1970年代 タペストリー 毛糸

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5. 大人の心もくすぐる「子ども」のための商品
スウェーデンでは1940年代にベビーブームが到来。グスタフスベリ社でも子ども向けの製品が多くつくられ、彼は30〜60年代に多数の子ども用食器セットをデザインしている。「彼のデザインは遊び心とストーリーテリング、ユーモア、そして子どもだけでなく大人にも語りかけるのが特徴」とブーグレーンは語る。絵本の挿絵も手掛け、ベストセラーとなった『ちゃっかりクラケール』(英語ではジミー・ポッターで有名)や、残念ながら出版・製品化には至らなかったが、スウェーデンを代表する名作『長くつ下のピッピ』の挿絵も描いていた。
『にぎやかな音楽バス(日本語版)』2004年 レンナート・ヘルシング 作 スティグ・リンドベリ 絵 いしいとしこ訳

『「ベイビー」装飾、「SB」モデル/子ども用食器セット:皿、マグカップ』1951年 ボーンチャイナ、デカル

『20世紀北欧デザインの巨匠スティグ・リンドベリ展』
関東
開催期間:〜9/7
開催場所:日本橋高島屋S.C. 本館8階ホール
営業時間:10時30分〜19時(19時30分閉場)※9/7は17時30分まで(18時閉場)
関西
開催期間:9/10〜21
開催場所:大阪髙島屋 7階グランドホール
開場時間:10時〜18時30分(19時閉場)※9/21は16時30分まで(17時閉場)
無休
料金:一般 ¥1,200
www.stiglindberg-exhibition.jp