【対談】藤本壮介×佐藤可士和 分野の垣根を越えて、両者が語る”つくること”とは

  • 写真:齋藤誠一
  • 編集&文:久保寺潤子
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領域を越えて活動する佐藤可士和と、建築の可能性を広げ続ける藤本壮介。ユニクロでの協働を経たふたりが、“つくる”ことの意味について語り合った。

いま、最も注目すべき建築家、藤本壮介。大阪・関西万博では会場デザインプロデューサーを務め、国内はもちろん、世界中から耳目を集めている。本特集では、新境地を切り拓いてきた藤本建築の数々や、本人インタビュー、協働したクリエイターとの対話などを収録。建築家・藤本壮介の仕事の全貌と、その魅力に迫る。

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“つくること”を問い直す、 クリエイターとの対話

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─―おふたりの最初の協業は2010年のユニクロ心斎橋店ですがその10年後、2020年に開業したUNIQLOPARK(ユニクロ パーク)横浜ベイサイド店が話題になりました。

佐藤 僕は2006年からユニクロの仕事をしていて、代表の柳井さんとは定期的に話をしていますが、東京オリンピック開催を前に銀座、原宿、横浜と3つの店舗を同時にオープンすることになった。銀座と原宿は人が集まりやすいけど、横浜はアウトレットショップの入るショッピングモールに建てるので、普通の店舗ではない、新しい提案が必要だった。それで藤本くんに白羽の矢が立ったんです。

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佐藤可士和●1965年、東京都生まれ。ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプト構築からコミュニケーション計画の設計、ビジュアル開発までを手掛ける、日本を代表するクリエイター。

藤本 いままで見たことのない店をつくってほしいという要望でしたが、あまり状況がわからずに箱型の模型をつくったら、柳井さんはぜんぜん納得してくれなくて。それから可士和さんと打ち合わせした時に、建物全体を階段のようにした模型を提案したんです。とはいえ4階まで階段で上る人はいないだろうと半ば諦めていたら、可士和さんが「そこに滑り台を付けたらどうだろう?」と。

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佐藤 屋上全体を公園にしたらいいんじゃないかってひらめいた。

藤本 その瞬間は、いまも鮮明に覚えています。

佐藤 クリエイティブな瞬間だったよね。ユニクロも大きな企業に成長して、社会に開いていく必要があると考えていたんです。

藤本 屋根の滑り台に子どもたちが駆け上がり、親は傍で寛いだり買い物をしたりする情景がパーッと浮かんだ。社会とどうつながるかという視点で、可士和さんが階段の模型に光を当ててくれた。

佐藤 僕は柳井さんや藤本くんとのセッションそのものがデザインの行為だと思っている。コンピューター上でかたちにするのは最後のプロセスで、打ち合わせこそがクリエイティブな場なんです。

藤本 可士和さんはユニクロという企業を「美意識ある超合理性」という言葉で説明していますが、これを聞いた時も衝撃でした。複雑な企業の全体像をスパッと切り取って言葉に結実させています。

佐藤 そこに至るまではとことんヒアリングします。曖昧な点は残さないよう、結構聞きにくいことも聞いていますしね。

藤本 建築家もクライアントの話をどう聞くかが大事です。対話の瞬間瞬間で咀嚼し、自分の言葉に変換することで相手の反応を引き出す可士和さんのコミュニケーションは参考になります。

佐藤 柳井さんはクライアントであり、クリエイターでもある。企業という絵の具を使ったビジネスクリエイターだと思っています。

社会へ開かれた、公園一体型の店舗

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トータルプロデュースとグランドコンセプト構想を佐藤が、デザイン監修を藤本が担当したUNIQLO PARK横浜ベイサイド店。「店舗建築そのものが公園となり、地域社会に開いていく」との構想のもと、商業空間と公共空間の融合を目指した。© Nacasa&Partners Inc.

藤本 2023年に私が仮殿の建築を手掛けた太宰府天満宮の宮司も大胆な方でした。伝統的ではない現代建築で仮殿をつくってほしいと。3年の期限付きではありますが、千年以上の歴史ある場所にどんな建築をつくるべきか悩みました。鎮守の森であること、周囲に豊かな森があったことから、屋根の上に森を浮かべるアイデアを出したら、すぐに賛同されて。

佐藤 あれは素晴らしかった。場の意味を新しく伝えていて。見に行ってその場で「素晴らしいね」とLINEしたよね。

藤本 自分では確信が持てなかったんですが、宮司にはイメージがはっきり見えていたと思います。境内にたくさん生えているクスノキを採用し、3年後に仮殿が解体された後は境内の森へ移植することで、千年先まで生き残ってくれればという物語を込めました。 

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藤本壮介建築設計事務所がデザイン・設計を手掛けた福岡県太宰府市にある太宰府天満宮の仮殿。周囲の豊かな自然が御本殿前に飛翔し、屋根に森が現れるというコンセプト。photo: Daici Ano
 

佐藤 世の中にないものをつくる時は、クライアントに対してガイドを提示する必要がある。そのためには対話を通して仮説を積み上げていくしかないんだよね。

藤本 建築も、クライアントのクリエイティビティが発揮されないと面白くならない。相手の想像力をどう引き出すかが重要ですね。

佐藤 クリエイティブディレクターが建築家と違うのは、「つくらなくていい」って言えることかな。必要なければ、建築を建てなくてもいいんじゃないかと提案する。

藤本 僕らがそんなこと言ったら仕事なくなりますよ(笑)

佐藤 モノをなくしていくことで「場」が生まれることもある。視点をものすごく引いてみると、つくるだけがデザインではないと思うんです。

藤本 僕もよく、「建物をつくるというより場をつくっている」という表現をしますが、結局最後は建築になっていく。これがジレンマでもあるんです。

佐藤 横浜の「団地の未来」プロジェクトはその一例で、敷地内の段差をなくして芝生と道をフラットにし、柵や壁を取り払ったら、まったく異なる空間が出現した。ディテールをなくした結果、最初にイメージした空気感に近いものになったんです。

藤本 モノの呪縛から逃れるほど、自由になれる。

佐藤 そうして生まれたのが「団地の散歩道」だった。道幅を広げて色や素材を変え、ベンチや土管を置いて公園をつくったら、劇的に人の流れが変わりました。

団地を再生し、未来の地域の暮らしを創造 

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横浜市・洋光台団地の「団地の未来」プロジェクト。ディレクターアーキテクトを隈研吾、プロジェクトディレクターを佐藤が務め、新しい住まい方と地域のあり方を提示した。photo: Takumi Ota

藤本 確かに、これからは道が重要だと思います。現在、博多駅前の明治公園の整備を手掛けていますが、奥の建物にスロープで上がれる空中道路をつくる予定です。建物をグルグルと囲む道は、下の広場でイベントをやる時は客席のようにもなる。

佐藤 対象に向かって寄ったり引いたりのダイナミズムをいかに広げられるかが大事だと思う。どちらかといえば“引き”で眺めたほうが新しいことができる気がする。

藤本 そうですね。引いて俯瞰していくことで見えてくるものがある。建築も引いていくほどいろんなものが視野に入ってきて、最後はそれを統合するのですが、ダイナミズムが大きいほど、統合時の鮮やかさはインパクトが大きい。

佐藤 その時大事なのがコンセプトです。表現の仕方はいろいろあるけど、方向性は共有しておかないと、クライアントとの間にどんどんズレが生じてしまう。コンセプトを表すものは言葉やビジュアル、ロゴであったりするんだけど。

藤本 言葉はいかようにも解釈できる反面、拡散力も展開力もある。だからこそ言葉をシャープに使うことでブレがなくなるんです。そこに解釈や展開の余地が残っているのが理想的で、「美意識ある超合理性」はその典型です。

佐藤 いいコンセプトができると、かえって自由になってアイデアが生まれやすくなる。シャープなコンセプトはブンブン振り回しても軸はブレないけど、出来の悪いコンセプトはその言葉によって逆にアイデアがしぼんでしまう。

藤本 そういう言葉は、熟考して出てくるのか、それとも突然パッと浮かんでくるものですか?

佐藤 ずっと考えているけど書いたりすることはないんです。全部頭の中にある。中途半端に出した途端つまらなくなっちゃう気がして。頭の中で考えていたものを大切にしてセッションでアウトプットして、その場で磨いていくことが多いです。

藤本 僕の場合は自分の中でいくつかモードがあって、スケッチを描いたり模型をごちゃごちゃいじったり、ラップトップで活字を打ち込んだり。事務所のチームとああでもないこうでもないと喋りながら解決することもある。最近は自分だけで考えると堂々巡りになってしまうこともあります。

佐藤 ひとりで考えているとつまらないし、予想外のものになっていかない。考えをキャッチボールすることで思いもよらないことが起きたり、インスピレーションを受けたりするよね。

藤本 今回の展覧会では未来の建築も考えたんですが、同時代の建築家の中には建物なんかもういらないんだという人もいて。

佐藤 つくらないことでなにかを変えることができたらと思うけど、まだその域には達していない。

藤本 究極のクリエイションですね。5年後、僕がなにもつくらなくなったら可士和さんに責任取ってもらおうかな(笑)

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佐藤のオフィス・サムライで対話したふたり。協働したUNIQLO PARK横浜ベイサイド店は、2020年4月に 、意匠の保護や利用を目的とした改正意匠法における「建築物の意匠」第1号登録を取得して大きな話題となった。

 

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