無地のTシャツに隠された秘密がある。一見シンプルに見えるその生地は、実は複数の色糸が絶妙に混ざり合うことで生まれた「杢糸（もくいと）」だ。この素材に宿る技術とこだわりを軸に成長してきた「mocT（モクティ）」が、いまファッション業界の関心を集めている。

mocTの物語は、岐阜県海津市にある新内外綿の工場から始まる。同社が誇るのは「ストックビン」という特殊工程だ。これは調合前に白綿と色綿を混ぜ合わせる独自の技術で、杢糸や多様な原料との混紡糸を極めて均一に混ぜることを可能にしている。かつて紡績業界では工場内への立ち入りを許さず、使用する綿花や生産方法などは一切極秘とされていたが、現在では数少ない国内紡績工場の共存の考えから透明性が重視されるようになった。こうした中で新内外綿が選んでいるのは主に、レギュラー綿花はアメリカとオーストラリア、オーガニック綿花はトルコ産である。

この選択には明確な理由がある。北半球のアメリカと南半球のオーストラリアでは綿花の収穫時期が半年ずれるため、年間を通じた安定供給が可能になるのだ。さらに重要なのは、両国の綿花が繊維の長さと品質に優れていること。繊維の長さは糸の強度や肌触りに直結するため、最終製品の品質を左右する重要な要素となる。

デザイナーの馬場賢吾は「mocTでは、ものづくりの起点を"糸"に置いています。一見すると無地に見えるTシャツやスウェットでも、実は杢糸を使っていて、よく見ると奥行きのある色調や陰影があります」と語る。この哲学を具現化するため、撚りの強さの調整や空気を含むような柔らかい繊維構造に細心の注意を払う。その結果、洗い込むほどに風合いが育つ「時間と共に馴染む服」が生まれるのだ。

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製造の舞台は和歌山へと移る。ここで出合うのは、今や日本でも数少なくなった吊り編み機だ。この古い機械が生み出す生地は、現代の高速編み機では決して再現できない独特の風合いを持っている。

25年秋冬シーズンの「HEAVY LOOPWHEEL」シリーズは、この吊り編み生地を通常より贅沢に厚手に編み立てた逸品で、特に品番末尾「RB」の商品は、サイドに縫い目のない丸胴を採用した希少なプロダクトだ。また、新開発の「EGE（エーゲ海コットン）」シリーズは、トルコとの共同開発による新たなオーガニックコットン糸を使用している。

mocTの技術力は、カシミヤからパイナップル葉繊維まで、さまざまな原料への対応力にも現れている。特にパイナップル葉繊維は、廃棄される農業副産物を活用したサステイナブルな素材として注目を集めている存在だ。こうした多様な素材を扱えるのは、同社の特徴である小ロット生産体制によるところが大きい。最小20キロからの対応が可能で、大量生産・大量廃棄が問題視される現代において、「必要なものを必要なだけ生産できる工場」という方針は時代の要請に応える重要な取り組みとなっている。

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ものづくりの現場を熟知する馬場は、mocTの差別化要因をこう分析する。

「mocTの一番の強みは、やはり"素材そのものに奥行きがある"ことだと思います。それは、ワタや糸から染めて生地にして、自分たちでゼロから作っているからこそ出せる表情です」

市場には類似の無地系アイテムが溢れているものの、mocTの製品には独特の「佇まい」が宿っている。手に取った瞬間にわかる質感の違い、着用時の心地よさ、そして時間と共に深まる風合い。それらは表面的なデザインではなく、素材に込められた技術と哲学から生まれる説得力に他ならない。

「クラシックだけど古くない。ベーシックだけど凡庸じゃない」

馬場のこの表現が的確に示すバランスこそが、mocTが切り開く新たな価値なのだろう。単なる流行を追うのではなく、本質的な品質を追求することで生まれる普遍性が、着る人に静かな自信を与える。このようなアプローチは、大量消費社会への一つの答えでもある。日本の伝統的な製造技術と現代的な感性が融合したmocTは、「見えない技術」の重要性を静かに、しかし確実に証明している。