海洋研究開発機構(JAMSTEC)の監修によるPen特別編集号『君はまだ、海を知らない』発売記念トークイベントが、2025年7月31日、代官山蔦屋書店にて開催された。オンライン参加も含め総勢107名の参加者を前に、本号の制作にかかわったJAMSTEC超先鋭研究開発部門 部門長の高井研さん、広報課の村田レナさん、海洋ジャーナリストの瀬戸内千代さんが登壇。制作の裏話やイチ押しの記事、海洋研究の奥深さ、2025年末に予定されている「超深海サンプルリターンプロジェクト」についてなど、多岐にわたる内容のトークで会場を魅了した。

「研究者たちが饒舌になる瞬間」が詰まった一冊

トークイベントは、本号の制作エピソードの披露から幕を開けた。
「制作が大詰めの時は、ひとあし早い夏休みの宿題みたいな追い込み感がありました」と話すのは、本号の制作においてJAMSTEC側の窓口を務めた広報課の村田さんだ。JAMSTECの行う研究は、「地球環境」「地震や津波」「深海生物」など分野が多岐にわたる。読者に伝えたいことが多いなか、テーマの取捨選択には苦労したという。

「JAMSTECの研究や技術の背景には、ものすごく長い時間や想いが注がれてきた過程や成果があります。それをなんとかして形にしたいと思って取り組みました。特に取材に同席する中で、研究者や技術者がふと饒舌になる瞬間があって。そうした印象的な場面も含めて、一冊にまとめることができたと思います。Penを通して、私たちが行う海や地球の研究ってワクワクするなと感じてもらえたらうれしいです」
多くのページで取材に協力したJAMSTECの高井さんと、ライターとして参加した瀬戸内さんは、それぞれの立場から制作過程を振り返った。そして、「JAMSTECを知る入門編として楽しんでいただきたい」と語った。
人は想像したことのないものを目の当たりにすると、黙る

印象に残った記事をそれぞれ挙げる際、高井さんは、JAMSTEC外の著名人とJAMSTECの研究者たちがコラボしたページに言及。「Penならではの切り口」と評価しつつ、特に印象的な記事として、漫画家・五十嵐大介さんによる描き下ろしの巻頭漫画『深海へ』と、五十嵐さんと自身の対談記事について語った。
「もともと五十嵐さんの描く漫画の世界観に強く心を打たれていたので、今回こうして漫画を描いていただけたことが、本号でも非常によいアクセントになったと感じています。深海って、潜らないとわからないかというと実はそうではなくて、イマジネーションによって潜った人と同じ感覚を持つことは可能だと思うんです。五十嵐さんはまさにそのタイプで、ご本人は海が怖くて潜らないとおっしゃるけれど、頭の中で想像して旅ができる天才だと思いました」
村田さんは「海底資源」や「みらいII」といったトピックに触れながら、自身も取材に同席した、小説家の伊与原新さんのインタビュー記事を紹介。「伊与原さんはもともと地球惑星科学の研究者でいらっしゃるので、科学研究の現場をご存知ということはもちろん、研究者の人としての魅力、生きざまや熱意を感じているのかをとてもていねいな言葉で表現される方だと感じました」と語った。

また、本号で「生命の起源」や「深海生物」といったページの取材・執筆を担当した瀬戸内さんは、印象に残った記事として「深海底にいる微生物も我々とつながっている」を挙げた。「取材時には、深海底の泥の中にウジャウジャいる線虫の話や、マルチプルコアラーという、海底に筒をスポッと刺して泥を取ってくる装置の話で盛り上がりました。単に泥といっても、表層から数㎝のところには多様な生き物がたくさんいるそうですね」
その話を受け、高井さんはマルチプルコアラーで使われているシステムの一部が、研究者の“苦肉の策”によって生み出されたものであるという「研究者あるある」エピソードを紹介。研究者たちの「過酷な環境でも必ず適応する」底力や研究にかける途方もない熱量にまつわるトークに、会場も大いに沸いた。
「研究者のことを考えるたびに思い出すエピソードが、以前『ちきゅう』という探査船に乗って東北地方太平洋沖地震の断層を調べに行った時のこと。同行した地質学者が、滑りを起こした断層のコアを見た瞬間に、黙り込んだんです。僕のような生物学者って、何か見つけるとすぐに有頂天になるんですが、それは想像できるから。見たことのない、想像したことのないものを目の前にすると、人間は黙るんだなと実感しました」
地球でいちばん深い海、マリアナ海溝で行われる未曽有の挑戦

イベント終盤では、JAMSTECが2025年末に予定している「超深海サンプルリターンプロジェクト」についても紹介された。地球で最も深いマリアナ海溝周辺で、海底下の地質サンプルや生物サンプルの採取などを行うというプロジェクトだ。その模様は、YouTubeで生中継されるという。高井さんは期待を込めてこう語る。
「この航海でマリアナ海溝の海底下40mのサンプルが取れれば、人類が到達したことのない世界最深のコア(地質試料)が手に入るんです。研究のための航海だと、どうしても科学的な話ばかりになりがちですが、せっかくだから世界記録達成の瞬間をみんなで一緒に味わいたいと思い、ライブ中継を計画しました。ぜひ、その瞬間をみなさんも見届けてください」
会場も大いに盛り上がったところで、トークタイムは終了。参加者との質疑応答では海洋ファンからの深い質問も相次ぎ、熱気冷めやらぬまま夏の一夜は更けていった。
2026年1月2日(予定)「世界最深」ライブ配信決定!
2025年、JAMSTECは超深海からのサンプルリターンに挑みます。水深5000m以上の日本海溝からスタートし、ハイライトを飾るのは水深1万mを超える、地球でいちばん深い海、マリアナ海溝。まだ誰も手にしたことのない「世界最深」サンプルリターンの瞬間を、2026年1月2日(予定)に研究船からライブ中継します。未だかつてない挑戦をお見逃しなく。
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Pen特別編集号
『海洋研究の最高峰、JAMSTECに潜入~君はまだ、海を知らない』
¥1,320
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