歌麿、写楽、広重など六大浮世絵師の傑作が一堂に会する! 『江戸の人気絵師 夢の競演』展で見る、浮世絵と江戸絵画の色気

  • 文&写真:はろるど
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歌川広重『近江八景之内 堅田落雁』(左)、『近江八景之内 瀬田夕照』(右) ともに1834(天保5)年頃 山種美術館 前期展示

東京・広尾の山種美術館で、特別展『江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで 特集展示:太田記念美術館の楽しい浮世絵』が開催されている。江戸時代に活躍した個性あふれるスター絵師が勢揃いし、浮世絵と江戸絵画の名作が一堂に会する展覧会の見どころとは?

保存状態の良い浮世絵コレクションを一挙公開!

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喜多川歌麿『美人五面相 犬を抱く女』 1803(享和3)年頃 山種美術館蔵 前期展示

17世紀後半に誕生し、同時代の社会や風俗が生き生きと描き出された浮世絵。初期の浮世絵版画は黒摺に手作業で彩色を施していたものの、1740年代の初め頃から2、3色を使った色摺が行われ、65年に新春に配る絵暦(えごよみ)の交換会が流行したことをきっかけに、多色摺の錦絵が制作される。そして、印刷技術の発達により、大量生産が可能になった浮世絵版画は、広く大衆へと普及していった。

山種美術館の浮世絵コレクションは約80点。保存状態が良いことで知られ、鈴木春信から鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重といった六大絵師の代表作を有している。本展では版元・蔦屋重三郎のプロデュースによる東洲斎写楽の役者大首絵をはじめ、歌川広重の代表作である保永堂版 『東海道五拾三次』や、葛飾北斎の『冨嶽三十六景 凱風快晴』(後期展示)など、同館所蔵の浮世絵を前・後期に分けて全作品展示している。

浮世絵界の二大スター、東洲斎写楽と喜多川歌麿

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東洲斎写楽『八代目森田勘弥の駕篭舁 鴬の次郎作』 1794(寛政6)年 山種美術館蔵 前期展示

前・後期あわせて3点出品される東洲斎写楽の役者大首絵が迫力に満ちている。このうち『八代目森田勘弥の駕篭舁 鴬の次郎作』(前期展示)は、写楽の大首絵の中では特に動きがあるもの。写楽画の特色である目の輪郭と眉を強調する似顔表現も際立っていて、顔をかたどる線はシンプルながら、人物の内面を巧みに描写している。また画面に光沢を出す雲母摺も美しく、角度によってきらきらとした輝きが変わる様子も楽しめる。

喜多川歌麿の『美人五面相 犬を抱く女』(前期展示)も、女性の艶やかな表情に魅せられる作品だ。「美人五面相」とは、人相見の趣向で性格類型を描き分けようとしたシリーズ。本図の詞書から「初々しい愛嬌と控えめな華やかさで世間受けする相」を意味すると考えられている。髪の生え際の彫りのことを毛割(けわり)というが、まるでしっとりと濡れたような髪の毛や細かな生え際の描写も歌麿ならではの卓越した表現といえる。---fadeinPager---

歌川広重の代表作で、諸国漫遊気分を味わう

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歌川広重『東海道五拾三次之内 日本橋・朝之景』 1833-36(天保4-7)年頃 山種美術館蔵 前期展示

歌川広重の2つの風景画のシリーズにて諸国漫遊気分を楽しみたい。そのうち『近江八景』(前期展示)は、中国・洞庭湖周辺の景勝地を詩に詠んだ瀟湘八景になぞらえ、琵琶湖南岸の8つの名所を和歌にしたもので、8点のうち同館が所蔵する6点を並べて展示している。色板の版面を濡らした布で拭いて水気を与え、その上に刷毛で絵具をはいて伸ばす「拭きぼかし」と呼ばれる技法で、空の墨、水面の藍、松の葉などを表現した『唐崎夜雨』も見どころだ。

広重の代表作として知られる『東海道五拾三次』は、扉から『日本橋・朝之景』、そして『京師・三條大橋』までの作品を前・後期に分けて全点公開している。東海道の各宿場や近郷を季節の違いや天候によって描き分けるという、浮世絵風景画に新たな局面を切り拓いたシリーズとしても名高い。風雨に耐える姿や茶屋での休息の情景など、親しみ深く時にユーモラスに描かれた人物の描写を目にすると、広重の観察力の鋭さや旅人への温かい眼差しも感じられる。

重要文化財も! 日本有数の浮世絵美術館、太田記念美術館のコレクション

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岩佐又兵衛『官女観菊図』【重要文化財】 17世紀(江戸時代) 山種美術館蔵 全期展示

こうした浮世絵に続く江戸絵画にも見逃せない名品が少なくない。後半では、岩佐又兵衛『官女観菊図』【重要文化財】や椿椿山『久能山真景図』【重要文化財】をはじめ、俵屋宗達、池大雅、伊藤若冲などが手掛けた優品の数々を展示し、さまざまな流派や画家の活躍した百花繚乱の世界を味わうことができる。うっすらと金泥が入り、着物の柄などのディテールも精緻な『官女観菊図』を、アクリル板越しの至近距離から見られるのも嬉しい。

同時開催の特集展示『太田記念美術館の楽しい浮世絵』では、日本有数の浮世絵美術館である太田記念美術館の15,000点を数える膨大なコレクションの中より、夏の花火、秋のお月見といった季節の楽しい行事をテーマとする作品を展示。従来の浮世絵にはない光の表現を描いた、小林清親の『両国花火之図』(太田記念美術館蔵)などの光線画の秀作も見どころだ。NHKの大河ドラマで蔦屋重三郎が取り上げられ、浮世絵が注目を浴びる中、魅力いっぱいの浮世絵コレクションを存分に堪能したい。

※本文中に所蔵表記のない作品はすべて山種美術館蔵

特別展『江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで 特集展示:太田記念美術館の楽しい浮世絵』

開催期間:開催中〜2025年9月28日(日)
※浮世絵は前・後期で展示替え(前期:8/9〜8/31、後期:9/2〜9/28)
開催場所:山種美術館
東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10時〜17時 ※入館は16時30分まで
休館日:月 ※9/15は開館、9/16は休館
入館料:一般 ¥1,400
www.yamatane-museum.jp