過去の時代の美意識が、いまもデザインやファッションの感覚をかたちづくっているフランス、パリ。1980年代の家具の黒く引き締まったミニマルな世界を見せるサントゥアン蚤の市の「リミックス・ギャラリー」や、1990〜2000年代のムードを巧みに織り込んだヴィンテージ服をそろえるマレ地区「ドゥマン・レトロ」。どちらも、異なる時代同士が対話するような場所だ。
彼らは、いずれもその時代のアイコニックなフォルムや作品を称えるだけでなく、現代に合わせて再解釈し、歴史とモダンをエレガントかつタイムレスにつなぐ架け橋となっている。

「リミックス・ギャラリー」──クールなミニマリズムと遊び心あふれる過剰さ、80年代フランスデザインの二面性を知る
一般的に80年代のデザインといえば、ファッションやポップカルチャーに見られる華やかな色彩やキッチュな装飾を思い浮かべる人が多いだろう。ナイトクラブ全盛期、奔放な性文化、コカインに酔うジェットセッター──自由で、型破りで、時に向こう見ずなライフスタイルが息づいた時代だ。特にイタリアのデザイン集団メンフィスのデザイナーたちは、素材や色柄を意図的に衝突させ、良識ギリギリの“悪趣味”をあえて狙い、ブルジョワな室内を覆すことを目指した。
そんな創造のエネルギーを肌で感じ育ったのが、美術家のヴァレリー・ブーヴィエと地方言語史家のアントワーヌ・ヌヴェだ。幼少期の記憶をたどるように家具を集め始め、2015年、パリのサントゥアン蚤の市で「リミックス・ギャラリー」を開業した。

ふたりを最初に虜にしたのは、ヴァーナー・パントンがイケアのためにデザインした「ヴィルベルト」チェアだった。4枚の鮮やかな色の木製パネルで構成され、オランダの建築家リートフェルトへのオマージュとして制作されたその椅子は、大胆でありながらも研ぎ澄まされた造形美を象徴していた。
演劇的な演出に魅了されるブヴィエとヌーヴェは、状態の良い廃番品だけを扱い、可能な限り修復は行わない方針を貫いている。ただし、彼らにとってのオリジナリティは、必ずしも鮮やかな色彩にあるわけではない。アレッサンドロ・メンディーニのように色彩や形で奔放さを表現するイタリアのデザイナーたちとは対照的に、この時代のフランス・デザインは冷ややかなミニマリズムへと傾き、しばしば金属の質感を前面に押し出していた。この美意識の背景には、第2次オイルショックの余波やエイズ流行の始まりといった、1980年代特有のより沈鬱な社会状況が反映されているのかもしれない。
初期のフィリップ・スタルク作品に見る、潔いまでのシンプルさ

抑制の効いた造形は、ギャラリーを代表するデザイナーの一人であり常連でもあるフィリップ・スタルクの初期作品にも通底している。ブヴィエとヌーヴェは、スタルクが独立して活動を始め、作品を形にしてくれるメーカーを探していた1980年代、まさに彼の形成期の作品をいち早く紹介した。80年代はスタルクにとって転機の時代であり、その家具には彼のスタイルの核が凝縮されている。たとえば「ミス・ドーン」チェア(81年)は、深い黒でまとめられたクリーンなラインと円形の座面クッションという、時代を象徴する色とかたちで、椅子を本質だけにまでそぎ落としている。後年、スタルクのデザインは木材を取り入れ、有機的な造形へと進化していくが、ブヴィエにとっては、この椅子の時点で既に頂点に達していたという。「ミス・ドーン」こそが、ブヴィエとヌーヴェがスタルク作品の収集を始めたきっかけであり、80年代デザインを探求したい人に真っ先に勧める一脚でもある。
限定で製作された、手仕事による作品

ジル・ドランの「アガット」コーヒーテーブルのように、滑らかな黒いシルエットを追求したデザイナーもいた。その波打つフォルムは、まるで波そのものを思わせる。ギャラリーの一角には、厚さわずか13センチのパスカル・ムールグによる控えめな書記机が置かれ、現代的なコンパクト生活のために設計されている。ブヴィエが指摘するように、80年代は離婚率が上昇し、家族がより小さな世帯に分かれる傾向が強まった時代だった。こうした背景から、省スペース家具の人気が高まり、フィリップ・スタルクの「ミックヴィル」スツールやサイドテーブルのように、脚を座面の下に折りたたみ、扉の裏にも収納できるデザインが生まれた。

80年代には、控えめで場所を取らない家具が次第に一般的になっていった。写真は厚さわずか13センチのパスカル・ムールグによる「ファス・ア・ファス」書記机(1,800ユーロ)と、フィリップ・スタルクがデザインしアレフ・ユビック社が製造した折りたたみ式スツール「ミックヴィル」4,000ユーロ
今日、この時代の家具はコレクターの間で再び注目を集めている。その理由の多くは希少性にある。当時、多くのデザイナーは手作業や小規模な工房で制作し、限定かつナンバリングされたシリーズを発表していた。ギャラリー空間を鮮やかに彩るアレッサンドロ・メンディーニの「トラ」キャビネットは、全9点のうちの第2作だ。メンディーニのように家具を彫刻的に捉えたデザイナーもおり、その中にはブヴィエお気に入りのひとり、ピエール・サラの名もある。

「ピエール・サラは本当に特別な人物なんです」と彼女は熱を込めて語る。「まさにインテリアのショーマン的デザイナー。『リコルヌ』『ピラニア』『オートル・フェニックス』といった魔法のような名前の椅子を生み出してきました。舞台美術の経験があるため、彼の作品には必ず劇的で物語性のある要素が込められています。たった一脚置くだけで、その空間に“ワオ”という驚きが生まれるんです」
1980年代の家具を自宅に取り入れることにためらいがある人に対しても、ブヴィエは「意外なほど合わせやすい」と強調する。シャルロット・ペリアンのような1950年代の木製家具や、アール・デコの名品、さらにはナポレオン時代のアンティークとも自然に調和するのだ。「1980年代は恐れを知らない時代。人々は自由だった」と彼女は締めくくる。その自由な精神は、どんな空間にも喜びと独創性をもたらす、抗いがたい魅力の家具の中にいまも息づいている。

Remix Gallery
住所:Marché Paul Bert, allée 6, stand 91, 96–110 rue des Rosiers, 93400 Saint-Ouen, France
TEL:+33(6) 6378 0693
営業時間:10時〜18時(土、日) 9時〜12時(金)
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「ドゥマン・レトロ」──過去と現在が交差する、タイムレスなメンズウェア
パリ・マレ地区北部、石壁がむき出しの光あふれる空間に構える「ドゥマン・レトロ」では、メンズ&レディースのヴィンテージウェアを鋭い視点でセレクトしている。1990年代や2000年代のファッションを愛する人にはたまらない、プラダやジャン=ポール・ゴルチエといったメゾンの保存状態の良いアイテムが並ぶ。80年代にデニムの革新を牽引し、ストーンウォッシュ加工をいち早く取り入れたマリテ+フランソワ・ジルボーなど、表舞台から姿を消してしまったデザイナーの作品も、ここでは再び脚光を浴びている。
「ドゥマン・レトロ」は、メンズのヴィンテージ市場における品揃えに物足りなさを感じていた情熱的なヴィンテージハンター、ティボー・ブグレが2020年に立ち上げた。活動は、ヴィンテージショップのコレクティブ「RE_CHERCHE」とのポップアップイベントから始まる。その後、プランタン・オスマンから2度にわたり出店の招待を受けた。与えられたポップアップスペースが、自身のセレクトだけでは埋めきれないほど広かったため、ブグレはファッションに加えてインテリア雑貨やフレグランスなど、他ブランドのアイテムも取り入れた。こうしてコンセプトストアという構想が膨らみ、やがてパリのリュ・デュ・タンプルに常設店舗として結実した。

時代と影響をブレンドし、現代的なスタイルを創り出す
店内のヴィンテージセレクションは、ティボーと、それぞれに独自のスタイル感覚を持つチームによって厳選されている。さらに、「ヴィンテージ・セラピー」や「ミッション・ヴィンテージ」といった専門店が加わり、鋭い審美眼で仕入れを担当。2週間ごとに刷新される豊富で変化に富んだ品揃えを実現している。価格帯は幅広く、およそ100ユーロから、希少なランウェイピースでは数千ユーロに達するものまで揃う。


ドゥマン・レトロは、創業当初からヴィンテージと現代のデザインを組み合わせるという発想を軸にしてきた。狙いは、時代や影響を自由に行き来し、過度にノスタルジックになったり古臭く見えたりすることを避けること。店長のリヴァ・ヒンは「ブランドアイテムを重ねすぎるよりも、一つ強いアイテムを際立たせるのがおすすめ」と話す。「そうしないと、すべてが埋もれてしまい、本当に際立つものがなくなってしまうんです」。そのアプローチの一例が、千鳥格子柄のヴィンテージ・プラダのウィンドブレーカーに、アレクサンドル・サンティーヴがデザインしたボリュームのあるローデニムを合わせたルック。ウエストのアジャスターで幅広いスタイリングが可能なこのジーンズは、若きデザイナーによる唯一の作品でもある。

新品のように蘇らせた、個性あふれるヴィンテージ
あまり知られていないデザイナーに光を当てることは、ティボー・ブグレにとって重要な使命だ。それは、彼自身がポップアップイベントで活動を始めた頃の原点にも通じている。店内のコンテンポラリーセクションでは、ロンドンを拠点とする「スタジオ Ü」が存在感を放つ。アップサイクルに積極的に取り組む同ブランドは、ヴィンテージウェアを大胆に再解釈し、新しい形へと生まれ変わらせている。例えば、裾を折り返して縫い留め、クロップド丈に仕立てたジャージーなどだ。これにマリテ+フランソワ・ジルボーによる解体的アプローチのデニムショーツを合わせれば、1990年代を彷彿とさせるストリートウェアの力強いルックが完成する。
服だけでなく、このコンセプトストアではアクセサリーやジュエリー、ホーム雑貨もセレクトしている。ここでも再び「スタジオ Ü」が主役となり、今回はクラシックなロンドン・パンクへのオマージュとして、縁をあえて擦り切らせたコンテンポラリーなキャップのラインを展開している。


ゆったりとした整然とした空間の中で、ドゥマン・レトロはヴィンテージファッションを新品同様のスタイルで提案している──しばしばメンズウェアにありがちな、狭くてナフタリンの匂いが漂う古着店のイメージとはまったく異なる。温かく迎えてくれるスタッフに会いに、そして店内に並ぶエレガントな雑誌をめくりながら最新の入荷アイテムをチェックするために、何度でも訪れたくなる場所だ。ファッション感度の高いアイデアで溢れるこの界隈にあって、ひときわ新鮮なインスピレーションの源となっている。
Demain Rétro
住所: 154 rue du Temple, 75003 Paris, France
TEL: +33(1) 8509 0380
11時30分〜19時30分(火〜土)
13時〜19時30分(日)
定休日:月