「SNS界のマルジェラ」と評される、ぼく脳。真空ジェシカ・川北とお笑いライブを企画したり、クラブイベントでパフォーマンスをして観客を沸かせたり、はたまた2024年にはパルコミュージアムトーキョーで初の個展を開催したり。独創的なユーモアセンスは、インターネットを介してカルト的な人気を集め、いまや海外メディアからも注目される存在となっている。
肩書は「基本的に人に任せている」といい、アーティスト、パフォーマー、現代美術家とさまざま。しかし、唯一名乗らないと決めているのが、キャリアの原点である「お笑い芸人」だ。
「高校時代にバスケ部の先輩に誘われ、吉本興業の養成所『NSC』に入り、若手芸人として活動していたことがあるんです。舞台で掃除機をかけたり、マイクをひたすら消毒するネタをやっていたのですが、まったくウケなくて(笑)、2年くらいで辞めました。その経験があるからこそ、現役の芸人にリスペクトを感じて、自分の肩書には入れていません」
芸人を辞めてからも、日常のちょっとした違和感を面白いと感じるセンスは健在だった。そんな時に出会ったのが、mixiの大喜利コミュニティだった。そこには、まだ無名だった人気作家や、同じくインターネットを中心に活躍するクリエイターが集まっていたという。
「笑いのセンスに影響を与えてくれたのは、ここで出会った人たち。芸人や放送作家を目指すわけでもなく、切磋琢磨してボケ続けている人たちがこんなにいるんだと救われた気持ちになりました。僕そのものと言ってもいい場所です」
それを機に、SNSを舞台にネタを積極的に発信。フォロワーとのつながりを通して活動の幅が一気に広がった。バンド「ネイチャーデンジャーギャング 」の活動もそのひとつだ。
「僕の投稿を見ていたメンバーが声を掛けてくれて。バンドと言っても、8〜10人で常にメンバーが入れ替わっていて、各々が自由にパフォーマンスするスタイル。そこで、まだ誰もやっていないポジションとして、僕は舞台でご飯を食べる『食事』を担当しました」
しかし、実はボーカルへの興味もあった。当時憧れていたのは、ピン芸人のハリウッドザコシショウ。大声とパワーで人を笑わせる芸風を目指し、バンドで練習しようと思っていたが、既に中心的な存在のボーカルがいた上、舞台上で試そうとしても、つい頭で考えてしまい、うまくいかない。自分の役割ではないと痛感した。
そんな彼のユーモアセンスが開花したのが、“ファッション”だった。お笑いの場では浮いていたアイデアが、ファッションの世界では理解してもらえた。
たとえば、個展で「社会の窓空いてる風デニム」を展示すると、マルタン・マルジェラの元関係者だったという外国人が、“クール”と言って買っていく。「置く場所を変えるだけでこんなに受け入れてもらえるんだ」と驚いた。
湧き出るアイデアは、いつも鮮度とスピードの勝負だ。
「ライバルはハイブランドです。発想が同じだったとしても、先手を打たれたらもう二度と自分の作品は出せない。その瞬間にいちばん悔しさを感じます。だからこそ、思いついたらメモもせず、すぐにつくって投稿します」
面白さの判断は、「インターネットのみんな」に任せている。
「僕の人柄よりアイデアに興味を持ってくれているから、リアクションが正直。本当にスベる時は20いいねしか付かないんです(笑)」
多岐にわたる活動のなかで、芯にあるものはなにかと尋ねると、彼は静かにこう語った。
「すべてはカウンターなんです。よくある日常の出来事に対してちょっとズラした大喜利をしているというか。時代によってウケるポイントは変わるけど、社会がある限りカウンターの表現は続けられると信じています」
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PICK UP
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PERSONAL QUESTIONS
好きな朝ごはんは?
「朝ごはん」という概念が好きで、膝にパンと目玉焼きのタトゥーを入れています。本当は卵かけごはんがいちばん好きなので、それをタトゥーにしたかったけど、膝はお皿なので……。
100万円プレゼントされたら、なにに使う?
誰にプレゼントされたかによりますが、そのまま展示したいです。美術館に置いてあったら面白そうですよね。もし制作費で同額いただいたら、制作せずにそれを作品にしたいですね。
繰り返しよく見る夢は?
遅刻しそうな焦りを感じながら、ものが見つからない夢。夢占いだと、つらい内容は現実世界でいいことが起きる予兆とされますが、もはやこの夢がマイナスなことなのかもわからない。
いま改めて勉強したいことは?
英語学習。作品だけで海外の方から注目されるのは嬉しいこと。でも、対面した時になんでいいと思ってくれたのか、もっとコミュニケーションしたいと思う場面が最近増えました。
いま注⽬したい各界のクリエイターたちを紹介。新たな時代を切り拓くクリエイションと、その背景を紐解く。
