「これ、食べられません」超リアルな質感の“ケーキアート”が世界中で人気

  • 文:宮田華子
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一見すると、誕生日会や結婚式に並んでいそうな華やかで美しいケーキだが、実はこれ、「食べられないケーキ」なのだ。

メキシコを拠点とするヘザー・リオス(Heather Rios)は、ケーキをモチーフとした作品(彫刻)を製作するアーティストだ。ポリマークレイと刺繍、そしてペイントを駆使し、超リアルな質感と彩りで構成されたケーキ彫刻を作り上げる。見ているだけで「ふわふわ感」や甘い味さえ想像できてしまうほどだ。

手作業が生むリアリズム

リオスの作品の最大の特徴は、複数の手法を繊細に重ね合わせている点だ。フロスティング部分は滑らかに塗られたポリマークレイで表現し、スポンジの層にはパンチニードルや伝統的な刺繍が施されている。スプリンクル、チェリー、花びら、絞り出し模様のパイピングまで、すべてが精密な手作業によるものだ。

これらの彫刻は、彫刻のイメージに合うヴィンテージの皿に乗せられ、フォークなどのカトラリーと共に展示される。視覚的錯覚を強調し、リアル感をさらに際立たせている。

ノスタルジーとファンタジーが融合した世界


リオスが表現しているのは、単なる「おいしそうなスイーツ」の形状ではない。彼女はケーキに宿る「お祝い」や「記憶」、「甘い喜び」といった情緒的な記号を抽出し、ミクストメディア作品として再定義している。磁器の模様、手刺繍による可憐な花柄、そしてスポンジの断面に潜むふわふわした質感。すべてがノスタルジックで、同時に夢のような幻想をもたらす。


ゴッホの「ひまわり」をモチーフにした作品。裏と表が異なる絵になっている点も注目。

「手が届くアート」として

リオスについての詳細な経歴は現時点ではほとんど公開されていないが、2022年頃から活動が注目され始めた。2025年には複数の海外アートメディアに取り上げられるなど、評価は高まっている。

自身のInstagramやEtsyショップを通じてこれらの彫刻を販売し、世界中に届けている。Etsyの商品ページでは、作品一つひとつに丁寧な説明が添えられ、購入者がインテリア用アートとして飾ることができる。

 


「ルイヴィトン」へのオマージュ作品。

Instagramでは製作過程も公開しており、刺繍やクラフト好きには見ているだけで楽しい動画や写真が満載だ。

食欲をそそるほどリアルでありながら、一切食べられないという矛盾。「甘いトリック」をつくり出すリオスは、今後さらに活躍の場を広げていくだろう。