イギリス人造形作家のルーベン・ウーが、ドローンに搭載したレーザーで夜の風景に光を描く作品シリーズ『Thin Places』を続々と発表している。大自然の光景に幽玄な光のタッチを加え、大胆かつ幻想的な光景を完成させた。
夜空に浮かぶ光のカーテン
シリーズ最新作は、純白の大地に光のカーテンが浮遊する不思議な風景写真だ。今春公開され、漆黒の夜空に舞う有機的な光の形で人々の心を捉えている。タイトルは個別に振られず、すべて『Thin Places』で統一されている。
作品の撮影場所は米ユタ州、塩湖の塩が太陽熱で濃縮された塩類平原の、ソルトフラッツだ。一面に塩の大地と湖が広がるこの場所が、夜になるとウー氏の広大なアトリエと化す。
複数のドローンを夜空へと放つと、搭載されたレーザーにより、暗闇の荒野に光のグラデーションが出現。予め綿密にプログラムされた飛行パターンに沿ってドローンが動くなか、シャッターを長時間開放する長時間露光のテクニックを使い、絹のように滑らかで躍動感ある光の軌跡を写し出した。
写真情報サイトのペタピクセルによると、ウー氏は1億200万画素センサーを搭載した中判カメラの富士フイルムGFX100RFを使用。同機はレンズ固定式だが、35mm F4と比較的暗めのレンズを、露光時間の長さでカバーしている。
Thin Places —— 境界が薄くなる場所
高い解像感により「息をのむような、幻想的な夜の風景写真」に仕上がったと同サイトはコメント。闇夜に光のアートを描く『Thin Places』シリーズは、オーロラを背景にした『Siren』シリーズと共に、自身を著名写真家に押し上げたターニングポイントになった。
米アートメディアのマイ・モダン・メットによると、ウーによる以前の作品シリーズでは、LEDライトをドローンに搭載していた。こうした作品では幾何学的な形状を描くのが限界だったが、昨年の『Siren』シリーズでレーザーを初めて使用し、表現の幅が大きく広がったという。LEDの点光源から、レーザーによる明暗のグラデーションが可能になった。新しいアプローチにより、「より有機的で生きているような」形状表現が可能になった、と同メディアは評価している。
シリーズ名『Thin Places』には、どのようなコンセプトが込められているのか。ウーは自身の作品観についてインスタグラムで、「世界には目に見えるものと見えないものがありますが、それらの隙間が薄く感じられる(境界があいまいになる)場所があります」と説明する。「Thin Placesは、まさにそうした瞬間を捉えた作品です。別の次元(the beyond)との、つかの間の出会いなのです」。
光が照らし出す、見慣れた光景の見知らぬ一面
マイ・モダン・メットは、別角度から作品の狙いに迫っている。記事によるとウー氏は、「見慣れたものが非日常的なものに変容する瞬間」を人々に体験してもらいたいのだという。日中は観光客が多く訪れ風光明媚なことで知られるソルトフラッツが、夜になるとひっそりと静まりかえる。静寂の中で初めて見えてくる世界の別の顔を、ウー氏は光によって可視化しようとしている。
「技術を使うことで、すでに知っていると思っていた場所に存在する、隠された美を明らかにするのです」とウーは語る。
ウーは春にニューヨークで個展を開いており、作品製作の傍ら、秋には別のアーティストとのコラボレーション展示会を予定するなど、忙しい日々を過ごす。見慣れた風景に隠された美にスポットライトを当て、予想を超えた光景をカメラに収める——。技術とアートを融合させ人々の心を掴む、ウーの作品作りは続く。
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