港に突き出す銀色の巨大螺旋階段“ザ・トルネード”が登場「どのように進むかはあなた次第」

  • 文:青葉やまと
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オランダ・ロッテルダムの港に、水上へと突き出す螺旋階段が姿を現した。かつて世界最大の倉庫の一角を成していた歴史的建造物が今年5月、中国の建築事務所MADアーキテクツの手により、移民をテーマにした博物館「フェニックス(Fenix)」として新たに生まれ変わった。

世界最大の倉庫がミュージアムに変貌

建物中心の屋上部に据えられた、巨大な螺旋階段の「ザ・トルネード(竜巻)」。フェニックスの来館者たちは、その存在感に圧倒される。銀色に輝くこのトルネードは、1階中央部から上部への動線だ。12mの片持ち梁で支えられ、旧倉庫の屋根を突き抜けて、水辺を見渡す屋上空間へと訪問者を導く。

ザ・トルネードを擁する博物館のフェニックス自体は、ロッテルダムの港湾地区カーテンドレヒトに建つ1万6000平方メートルの巨大な倉庫を改装したものだ。建築ニュースサイトのアーキ・デイリーは、「かつて世界最大の倉庫の一部だった」と伝えている。1923年築の鉄筋コンクリート造の建物であり、建築専門サイトのアーキ・ハローによると、かつては船会社ホーランド・アメリカ・ラインが扱う積み荷の保管・輸送拠点だった。

頂上まで銀色の螺旋階段を昇り切ると、そこには博物館の公式サイトが「歴史的な埠頭の壮大な眺め」とアピールする絶景が広がる。埠頭は19世紀から20世紀にかけ、数多くの人々が移民として、アメリカやカナダへと旅立った場所であった。同時に多くの移民がオランダ国外からロッテルダムに到着し現在の都市の礎を築き上げた、ロッテルダムの歴史に欠かせない要衝だ。

移民の旅をなぞる螺旋階段

ザ・トルネードの階段は、なぜ大きくうねっているのか。フェニックスによると、「移民たちの旅のメタファー」との設計意図がある。設計者の中国人建築家マー・ヤンソンは、屋上へと続く単なる垂直動線ではなく、深い意味を持つ空間体験を生み出そうと思考を巡らせた。

螺旋階段の入口は1階中央のメインホールに、2つ存在する。訪問者はそれぞれ異なるルートで頂上を目指すことができ、「どのように進むかはあなた次第だ」というメッセージを放っている。この設計思想は、移民たちが思い思いの道筋で新天地を目指した歴史に触発された。

階段を覆う297枚のステンレス鋼パネルは鏡面仕上げになっており、訪問者は通路を昇りながら、あたかも自身の人生を見つめ直す移民たちのように、鏡面に映る自分の姿を幾度となく目にする仕掛けだ。

ヤンソンは、ザ・トルネードの道を「予期せぬ曲がり角や、視点の変化に満ちている」ように設計したと語る。他の訪問者たちとすれ違い、時に同じ方向へ、時に逆方向へと進む人々の動きもまた、さまざまな境遇の人々が行き交った移民の歴史を想起させるかのようだ。

2000個のスーツケースが語る物語

フェニックスには現在、主要な展示企画が3つ開催されている。いずれも人類の移動をテーマにしたものだ。最も注目度の高い「ザ・メイズ(迷路)」と題された作品は、寄贈された2000個のスーツケースで構成されている。移民たちが共に人生の旅路を歩んだ品々を象徴している。

一人ひとりの移民たちの歩みに手で触れ、音声を聞きながらその旅路を追体験できるという。移民の中には、かつてロッテルダムから旅立ち、再びこの地に戻ってきた人もいる。新天地になじみ定住できたとは限らないが、新たな航路を自らの手で掴もうとした移民たちの挑戦の歴史に思いを馳せる展示だ。

博物館のコレクションにはまた、ベルギーからメキシコへ移住したフランシス・アリス、パリで生まれ育ったソフィ・カル、ムンバイから民族の価値観を世界に発信するシルパ・グプタなど、世界の著名アーティストの作品が集う。いずれも、現代ならではの視点から移民を扱った作品だ。

ロッテルダムの水辺に燦然と輝く螺旋階段は、過去から現在、そして未来へと続く人生の物語を象徴している。