彫ることで立ち上がる、時間と場所のゆらぎ。ネルホルの現在地をたどる大規模個展『種蒔きと烏』が開催中

  • 文:Pen編集部
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『Cornus florida linn』 2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery

グラフィックデザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太によるアーティストデュオ、ネルホル(Nerhol)。2024年にPenクリエイター・アワードを受賞した彼らの表現は、写真と彫刻を軸に、他者や社会との接続を試みてきた。

千葉市美術館で発表した初の大規模個展『水平線を捲る』は、17年にわたる活動を総覧する展示として高い評価を受けたばかり。いま、まさにその次を提示するべく、最新作と未発表作を含む約80点によって構成された個展『種蒔きと烏 Misreading Righteousness』が埼玉県立近代美術館で開催中だ。

タイトルに込められたのは、正しさの読み違い、あるいは複数の正しさが共存する世界の在り方。どちらも肯定されうると同時に、揺らぎを孕む存在。本展はその両義的な関係を、作品というかたちで捉えようとしている。展示では、連続撮影した写真の束を彫り込むという初期の手法を出発点に、石灰石を原料とする高強度の紙「ストーンペーパー」や、長い時間をかけて地中で石化した植物「珪化木」、都市の街路樹などさまざまな異素材を用いた新作群を展開している。中でも注目したいのが、近年の探究の軸でもある“帰化植物”を主題にした大型インスタレーションだ。モチーフであるハナミズキは、かつては日米間の友好を象徴する植物として日本に渡来し、いまや街路に根付く存在に。人の手によって運ばれ、場所を変えて生きるその姿に、歴史的背景や社会との関係性を重ね合わせながら、空間全体を巻き込むように再構成していく。

「彫る」ことでつくり出す、 時間と空間のかたち。作品たちが静かに語りかけるのは、私たちの日常の見方そのものだ。ネルホルの現在地を巡る旅に、ぜひ足を運んでみてほしい。

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『Piano sonata 01』 2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery
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『connecticut』 2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery
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『Canvas (Oasa)』 2025年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery
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『carve out / E.M 38a』 2023年 ©Nerhol Courtesy of Yutaka Kikutake Gallery Photo by Daisuke Shima Photography

『Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness』

開催期間:開催中~10月13日(月)
開催場所:埼玉県立近代美術館
さいたま市浦和区常盤 9-30-1
開館時間:10時~17時30分 ※入場は17時まで
休館日:月 ※7/21、8/11、9/15、10/13は開館
入場料:一般 ¥1,400
https://pref.spec.ed.jp/momas/2025nerhol