
近年国際的な現代美術では、地域特有の文化から生まれたアートの再考が進んでいる。昨年のベネツィア・ビエンナーレでもローカルな文脈の作品が百花繚乱で、なかでもオーストラリア先住民のアボリジナル作家の個展を開催したオーストラリア館は金獅子賞を受賞した。
本展では、いま改めて国際舞台で存在感が高まるアボリジナル・アートの女性作家に焦点を当てている。1980年代まで制作の中心は男性作家だったが、彼女たちはその立場を逆転させ、オーストラリア現代美術の方向性を握るまでになった。女性作家たちが、手法や作品のテーマ、素材の多様性と豊かな表現力の拡がりに大きく貢献したことがその理由のひとつだ。バティック、 ジュエリー、編み物などそれまで芸術作品として受け容れられなかった創作を芸術表現に昇華させたのだ。本展で特に目を惹かれるのは、都市部を拠点とする作家たちの洗練された表現。タスマニアに祖先を持つ1965年生まれのジュリー・ゴフは、土地の歴史や文化を緻密に調査し、現地で採取されるティーツリーや石炭、動物の落角などの自然素材を通して自身のアイデンティティを探る。73年生まれのイワニ・スケースは、手吹きのウランガラスによる鮮烈なインスタレーションを展示。祖先が経験した植民地時代の出来事や冷戦期の核実験に利用された故郷、いまも鉱山採掘により削られる大地の姿を伝え、高く評価されている。
一方でオーストラリアの広い国土に由来する多様な地域性にも刮目したい。コレクティヴとして活動するジャンピ・デザート・ウィーヴァーズは、土地に根ざしたコミュニティの生活を清々しいほど無為に表現した短編アニメーションを展示。その天衣無縫な生命力にノックアウトされることは間違いない。
『彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術』
開催期間:~9/21会場:アーティゾン美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(金は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(8/11、9/15は開館)、8/12、9/16
料金:一般¥2,000
www.artizon.museum
※この記事はPen 2025年9月号より再編集した記事です。