三代続く味に全国から注文殺到。鎌倉の製麺所「邦栄堂製麺」のこだわりを訪ねて

  • 写真:竹之内祐幸
  • 編集&文:吉田彩乃
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自宅の麺料理のレベルをぐんと上げてくれるのが、製麺所直売の麺だ。料理研究家や有名店、食通から愛される鎌倉の製麺所「邦栄堂製麺」を訪ね、その人気の秘密を探った。

暑いからこそ、啜りたくなる一杯がある。本特集では、「この夏、啜るべき麺」の厳選リストに加え、食通やクリエイターのお薦め、瀬戸内のご当地麺旅、レシピ提案、ローカルチェーン、製麺所の現場までを紹介。冷たさに癒やされ、熱さ・辛さにととのう。この夏、麺が気分だ。

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鎌倉に根付き、日本全国から愛される製麺所

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中華麺は細麺ちぢれ・ストレート、中麺、太麺、平太麺の5種。材料は小麦粉、塩、水、かんすいのみ。余分なものは関の代でカットした。

全国的に製麺所が減少しているなか、10年近く新聞やテレビ、雑誌で取り上げられ続ける人気のつくり手がいる。邦栄堂製麺だ。料理研究家のファンも多く、全国からひっきりなしに注文が入る。

なぜ、ここまで有名になったのか? 理由を探るべく神奈川県鎌倉市の工場を訪ねてみると、その外観は思いのほか質素で驚いた。1970年代に建てた工場で、当時導入した製麺機をそのまま使用。黙々と作業に取り掛かる関康の姿は、職人そのものだ。

「通販もしていますが、地域密着のスタンスを貫きたい」と、関は言う。

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三代目の関康。2011年に33歳で家業を継いだ。学生時代にアルバイトとして家業を手伝い始め、大学卒業後に始めた家具職人の仕事も続けており、麺職人と二足のわらじを履く。

1日の生産量は多い時で2000食。大手メーカーと比べると、その量は圧倒的に少ない。おもな卸先は、湘南地域を中心に25軒弱。朝6時半から製麺作業を始めると、昼時に間に合うように9時過ぎには配達に出る。

卸先は、彼に絶大な信頼を寄せている。大船「中華そば さとう」の店主・佐藤淳は、朴訥とした雰囲気を漂わせながらも、邦栄堂の麺の話では急に饒舌になった。

「ここの麺を食べると、優しさを感じるんです。口に入れた時に、小麦粉の香りがふわっと広がる。主張が強すぎないのでスープによく馴染む。自分のラーメンに邦栄堂以外の麺は考えられません」

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左:  卸先への配達に使っている、年季の入った木の番重。大船の「中華そば さとう」の店主は、「愛らしいこの番重を見てほしくて、客席から見える場所に置く」と話す。右: 1976年に工場に導入した製麺機を現在も使用。電動より効率が落ちても、手作業を重視する。

関自身も、熱心に取引先に足を運ぶ。2011年に家業を継ぐと、彼はSNSで製麺所の公式アカウントを開設し、「自社の麺を研究する」「自社の皮を食す」という言葉とともに、卸先のラーメンや餃子を発信するようになった。

「町中華や製麺所が危機的な状況にあるなかで、なにか自分にできることを探しています」

いまでも月に2回は卸先の飲食店に足を運び、自社の麺がどう食されているのか研究する。

「家業を継いだばかりの頃はまだ若くて、卸先の料理を食べながら『麺はもっと硬くゆでてほしい』と思ったりもしていたんです。でもいまは、店ごとの最適解があって面白いと感じるようになった」

余計な保存料を抜くなど、麺の原材料は微調整しているが、味は変えていない。「三代続いてきた自負があるし、使うお店に合うスープの邪魔をしない麺であることがいちばんだと思っている」と、関は信念を見せる。真摯であること。人気の理由は、それに尽きるのかもしれない。

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関が製麺作業をするかたわらでは彼の姉が直売所にひっきりなしに訪れる客に麺を売り、その合間に通販用の餃子の皮を新聞紙で包んでいく。製麺も通販用の梱包もすべてこの工場で行っている。 
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関が長年かけて全国のラーメンスープを試食し、選りすぐりのものを販売。醤油、塩、あさりと煮干し醤油、鯛と利尻昆布の塩、担々麺のほか、月替わりのスープなど約10種揃う。
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工場は1953年の創業後、70年に改築。以来、同じ建物で麺を打ち続ける。使い込んだ製麺機や木の床には昭和の香りがそのまま残り、とても趣深い。
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直売所に置かれたメニュー黒板。

 

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製麺所はJR鎌倉駅から徒歩で約20分の場所に位置する。白い暖簾がかかった軒先の直売所には、近所の住民のほか遠方からの客も訪れる。

邦栄堂製麺

住所:神奈川県鎌倉市大町5-6-15
TEL:0467-22-0719
営業時間:11時〜16時 ※売り切れ次第閉店
定休日:月、火
Instagram:@houeidou.noodle.factory

 

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※『PEN』2025年9月号の特集「夏の麺を、食べつくす」(92ページ)におきまして、写真のキャプションに下記の誤りがございました。

誤:材料は小麦粉、水、かんすいのみ。余分なものは関の代でカットした。正:材料は小麦粉、塩、水、かんすいのみ。余分なものは関の代でカットした。

訂正してお詫び申し上げます。