自宅の麺料理のレベルをぐんと上げてくれるのが、製麺所直売の麺だ。料理研究家や有名店、食通から愛される鎌倉の製麺所「邦栄堂製麺」を訪ね、その人気の秘密を探った。
暑いからこそ、啜りたくなる一杯がある。本特集では、「この夏、啜るべき麺」の厳選リストに加え、食通やクリエイターのお薦め、瀬戸内のご当地麺旅、レシピ提案、ローカルチェーン、製麺所の現場までを紹介。冷たさに癒やされ、熱さ・辛さにととのう。この夏、麺が気分だ。
『夏の麺を、食べつくす』
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鎌倉に根付き、日本全国から愛される製麺所

全国的に製麺所が減少しているなか、10年近く新聞やテレビ、雑誌で取り上げられ続ける人気のつくり手がいる。邦栄堂製麺だ。料理研究家のファンも多く、全国からひっきりなしに注文が入る。
なぜ、ここまで有名になったのか? 理由を探るべく神奈川県鎌倉市の工場を訪ねてみると、その外観は思いのほか質素で驚いた。1970年代に建てた工場で、当時導入した製麺機をそのまま使用。黙々と作業に取り掛かる関康の姿は、職人そのものだ。
「通販もしていますが、地域密着のスタンスを貫きたい」と、関は言う。

1日の生産量は多い時で2000食。大手メーカーと比べると、その量は圧倒的に少ない。おもな卸先は、湘南地域を中心に25軒弱。朝6時半から製麺作業を始めると、昼時に間に合うように9時過ぎには配達に出る。
卸先は、彼に絶大な信頼を寄せている。大船「中華そば さとう」の店主・佐藤淳は、朴訥とした雰囲気を漂わせながらも、邦栄堂の麺の話では急に饒舌になった。
「ここの麺を食べると、優しさを感じるんです。口に入れた時に、小麦粉の香りがふわっと広がる。主張が強すぎないのでスープによく馴染む。自分のラーメンに邦栄堂以外の麺は考えられません」
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関自身も、熱心に取引先に足を運ぶ。2011年に家業を継ぐと、彼はSNSで製麺所の公式アカウントを開設し、「自社の麺を研究する」「自社の皮を食す」という言葉とともに、卸先のラーメンや餃子を発信するようになった。
「町中華や製麺所が危機的な状況にあるなかで、なにか自分にできることを探しています」
いまでも月に2回は卸先の飲食店に足を運び、自社の麺がどう食されているのか研究する。
「家業を継いだばかりの頃はまだ若くて、卸先の料理を食べながら『麺はもっと硬くゆでてほしい』と思ったりもしていたんです。でもいまは、店ごとの最適解があって面白いと感じるようになった」
余計な保存料を抜くなど、麺の原材料は微調整しているが、味は変えていない。「三代続いてきた自負があるし、使うお店に合うスープの邪魔をしない麺であることがいちばんだと思っている」と、関は信念を見せる。真摯であること。人気の理由は、それに尽きるのかもしれない。
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邦栄堂製麺
住所:神奈川県鎌倉市大町5-6-15
TEL:0467-22-0719
営業時間:11時〜16時 ※売り切れ次第閉店
定休日:月、火
Instagram:@houeidou.noodle.factory
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※『PEN』2025年9月号の特集「夏の麺を、食べつくす」(92ページ)におきまして、写真のキャプションに下記の誤りがございました。
誤:材料は小麦粉、水、かんすいのみ。余分なものは関の代でカットした。正:材料は小麦粉、塩、水、かんすいのみ。余分なものは関の代でカットした。
訂正してお詫び申し上げます。