隙間に生まれた“教会のような”カフェ。狭さを魅力に変えた、ブカレストの神聖すぎる建築デザイン

  • 文:山川真智子
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かつては「東欧の小パリ」とも呼ばれたルーマニアの首都ブカレストは、歴史的建造物やノスタルジックな町並みが残る都市だ。再開発が進む近年、古い路地の間にはお洒落なカフェやレストランなどが立ち並び、賑わいを見せている。そんな中、地元のコーヒーショップが、建物の間の狭い余剰空間を利用した新店舗をオープン。立地の制約を魅力に変えた、斬新なデザインで注目を集めている。

閉塞感を打開! 空に向かって伸びる屋根

話題の建物は、ブカレストですでに数店を展開するボイラー・コーヒーの新店舗「ザ・チャペル」。青々とした街路樹が並ぶ大通りに面しているが、既存の建物に挟まれた隙間空間に建てられているのが面白い。設計を担当したのは、ブカレストの建築設計事務所・ヴィンクルで、随所に空間的制約を魅力に変えるアイデアを採用している。特に注目したいのが、高く突き出た三角の屋根部分だ。空に伸び上がる鋭角的な三角形が、建物のボリュームと視覚的なダイナミズムを最大化し、閉塞感の解消につながっている。屋根のかたちは教会の尖塔を思わせ、「ザ・チャペル」の名の由来が伺い知れる。

昼と夜で印象が異なる、ガラスの壁による光のマジック 

このプロジェクトでは、光が重要なコンセプトになっている。建物の前面は、断熱・遮熱性能の高い三重のエコガラスを使用し、ほぼ完全なガラス張りだ。透明なガラスは、光を屈折させるレンズとして機能し、意図的に内部と外部の境界を曖昧にしている。昼間には、自然光が複数の角度から差し込み、店内をまるで歩道の延長のような温かい空間にする。一方、暗くなると建物の表情は一変。昼間の自然光の反射性が失われると、今度は店内の照明がランタンのように光り輝く。これが街路に幻想的なパターンを投影し、建物そのものがオブジェであるかのような印象を与える。

余剰空間の再生。制約は建築家にとっての可能性

店内は淡い色の木材で仕上げられ、温かく落ち着いた雰囲気。高い天井と自然光の巧みな活用による効果によって、内部は驚くほど広く感じられる。スペシャルティコーヒーをコミュニティの中心に組み込むというボイラー・コーヒーのコンセプトを実現すべく、レイアウトは綿密に計画されている。限られたスペースでの動線を考え抜いたカウンターや客席を配置しており、人々の交流、静かな瞑想、厳選されたサービスが提供される場となっている。ここは、ブカレストの新たな人気店のひとつとなりそうな予感だ。 現代のインダストリアルデザインに関するニュース・サイト、ヤンコー・デザインは、このプロジェクトの真の意義は、スマートなデザインが、忘れ去られた空間に命を吹き込む方法を示したことにあると指摘。優れたデザインは広大な土地ではなく、むしろ制約の中で花開くことを教えてくれたとしている。