驚きの連続、重松象平が手掛けるルイ・ヴィトン『ビジョナリー・ジャーニー』展を体感せよ

  • 文:住吉智恵
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展覧会のエントランスを入ると、ペールグリーンの廊下が出現。ルイ・ヴィトンの世界がここから始まる。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

大阪中之島美術館で開催中の『ビジョナリー・ジャーニー』展はこれまで国内で開催されてきたルイ・ヴィトン展をはるかに凌駕する規模の展覧会だ。美術史家でキュレーターのフロランス・ミュラーの協力により制作され、OMAの重松象平がデザインを担当した。メゾンの原点から最新クリエーションまでの軌跡が鮮やかに描かれ、日本との長きにわたる関係にオマージュが捧げられている。

エントランスでは、1859年に創業者ルイ・ヴィトンがセーヌ川に面した街アニエールに設立した最初のアトリエを起点に、時代とともに変遷した歴代のアトリエを紹介する。爽やかなペールグリーンを基調とするしつらえやドールハウスを模したバッグのアーカイブは、家族経営から出発したメゾンの瑞々しい気運を思い起こさせた。

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「原点」をテーマにした展示室。圧巻の展示空間に、貴重なトランクや資料が所狭しと並んでいる。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton
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「冒険」の展示室中央にあるのは、1906年〜10年のヴィトニット・キャンバスのクラシックなトランクだ。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

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続いて、「原点」と「冒険」をテーマにしたそれぞれの展示室では、メゾンの原点である旅行用のラゲージ、そしてルイ・ヴィトンを象徴するモノグラム・キャンバスのトランクの数々を紹介する。グルーミングアイテムからDJセットまで、いずれも収納や施錠の工夫が丹念に施され、オーナーの職業的矜持や生活美学をも想像させる。

精緻なグリッドで曲面を表現した展示壁や、気球をかたどったドーム型展示室は、時空を超える旅の冒険譚を思わせてテーマにフィットしていた。

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「ルイ・ヴィトンと日本」と題されたセクション。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

 

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茶道具のセット。市松模様とモノグラムが美しく呼応している。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

「ルイ・ヴィトンと日本」と題されたセクションでは、1867年のパリ万博を契機に一気にフランスに流れ込んだ日本文化とメゾンとの長きにわたる幸福な出合いの変遷を辿る。審美眼の光る日本美術コレクションと、そこからインスパイアされた製品のアーカイブに至る文化伝搬のくだりは圧巻。刀の鍔(つば)から着想を得てデザインされた洗面用具セットはルイ・ヴィトン独自のグラフィックな意匠とも時を超えて通じ合う。市川團十郎のために特別にしつらえられた鏡台ケースやお茶用トランクなどの品々からは、創設時より日本の顧客との関係性を築いてきた歴史を垣間見ることができる。

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透明のキューブが積み上げられた「素材」をテーマにした空間。いろいろな角度から見ることができる。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

ルイ・ヴィトンの手仕事の真髄を「素材」を通して文字通り見透すことのできる展示室では、トランクの4つの主要な素材(木、金属、革、キャンバス)を紹介する。技術に裏付けられたその探求精神は桁外れである。旅の道中で酷使される製品ならではの質実剛健さに、デザインの遊びやウイットがほのかに加味されていることも心くすぐる。博物館の標本を連想させるおびただしい数のアクリルケースを集積した展示構成も見事だ。 

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「アトリエ」セクションでは、ルイ・ヴィトンのサヴォアフェール(匠の技)を継承する職人たちが優雅な手さばきでデモンストレーションを披露する。

さらにその奥には、本展のなかでもひときわ異彩を放つ展示がある。それは製品の厳密な品質管理に欠かすことのできない「耐久性試験」のセクションだ。もっとも重要な引張強度と曲げ強度の精密検査を司る機器は、「ルイーズ」と「ルイゼット」という、眼鏡をかけた生真面目なマダムを想像させる愛称で呼ばれている。テキパキと測定作業をこなしていく彼女たちの様子はSF映画に登場する相棒のロボットを彷彿とさせ、ひたむきで賢くどこかユーモラスだ。

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「耐久性試験」のセクション。さまざまなマシーンが繰り返しトランクの蓋を開け閉めしたり、バッグのショルダーを引っ張ったりする。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

アーティストとのコラボレーションの実績は、現代のルイ・ヴィトンのシグニチャーのひとつである。最後のセクション「コラボレーション」では、マーク・ジェイコブスが2001年にスティーブン・スプラウスと組んだグラフィティのシリーズから、03年の村上隆、12年の草間彌生、さらに23年の草間との2度目のコラボレーションまでを網羅して展示。草間の代表作に捧げられた無限に増殖する鏡像のインスタレーションは、ルイ・ヴィトンというメゾンが創業以来描いてきた「夢」や「高揚」、そして常にポジティブに未来を展望する企業文化とその姿勢の高さを示していた。

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最後はコラボレーションにフォーカスした展示室「コラボレーション」。草間の「無限の鏡の間」のような、没入感のある空間だ。 photo: Jeremie Souteyrat/Louis Vuitton

質量ともに圧巻の展示は、一見の価値あり。ぜひこの夏、体験してほしい。

ルイ・ヴィトン『ビジョナリー・ジャーニー』展

開催期間:開催中~9月17日(水)
開催場所:大阪中之島美術館 5階展示室
開館時間:10時〜17時(金、土、祝前は19時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(8月11日、9月15日は開館)
入館料:一般 ¥2000
https://nakka-art.jp/exhibition-post/louisvuitton-2025
https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/magazine/articles/visionary-journeys-osaka