
月やその先の深宇宙への人類の挑戦を間近に感じられる日本最大級の宇宙展が、東京・お台場の日本科学未来館にて開かれている。アポロ計画から約半世紀、再び月に宇宙飛行士を送り、火星の有人探査を行うべく進展する最新の宇宙探査技術とは?
JAXA種子島宇宙センターにあるロケット部品がお台場へ

人工衛星や探査機を目的の軌道へと送り出す役割を担い、宇宙へ到達するために不可欠であるロケット。このうち次世代を担う日本の新たな大型基幹ロケットとして開発されたH3ロケットは、これまでのH-IIAロケットに比べ、低コストで幅広いバリエーションを備えることで搭載衛星に適した無駄のない打ち上げを実現し、将来の宇宙輸送の中核を担うことが期待されている。
「本物のロケットの部品に触れる?」と嬉しくなるのが、フェアリングやフィードラインカバーなどの実物展示だ。フェアリングとは、ロケットに搭載された衛星などを飛行による風圧や摩擦熱から守るカバーのこと。その一部が展示ケースに入れられていて、実際に下から押し上げることができる。極めて高い強度の複合素材にてつくられているが、意外なほどに軽いことに驚いてしまう。
前澤友作の宇宙旅行に使われた、「ソユーズ宇宙船帰還モジュール」の実機展示も

ソユーズ宇宙船の帰還モジュールの実機が展示されている。これは2021年に日本の民間人で初めて国際宇宙ステーション滞在を果たした前澤友作氏が搭乗したもの。宇宙船が地球に帰還する際、大気が圧縮されることによって外部には1万度を超える高温が生じるが、帰還モジュールの外壁は焼け焦げているように爛れていて、大気圏再突入時の環境の過酷さを実感できる。
最大3人の乗員が搭乗可能な帰還モジュールの内部には、操作パネルや計器類がたくさん配置され、どう見ても快適そうには思えない。しかし、限られた空間ながらも必要十分な設備が整えられ、多くの実績に裏打ちされた高い安全性を誇っているという。なお、この帰還モジュールの上には、表面積1000平方メートルのメインパラシュートも展示され、前澤氏が実際に着用したソコルスーツと呼ばれる宇宙服とともに見学できる。---fadeinPager---
人類が月を目指す「アルテミス計画」の正体

アポロ計画以来、約半世紀ぶりに人類が月を目指す「アルテミス計画」に関する展示が充実している。同計画では月面への有人着陸だけでなく、未来の火星探査を見据え、月面での長期滞在を行うためにさまざまな技術の開発が進んでいる。このうち、有人月面探査車「有人与圧ローバー」とは、宇宙服を着ない状態にて車内で生活しながら移動できる探査車のこと。2人の宇宙飛行士が1年のうち約1ヶ月間活動できるよう、JAXAを中心に日本が研究開発をしている。
この探査車を支える有人与圧ローバーのタイヤにも注目したい。過酷な環境である月面においてはゴムを使えず、ほとんど空気がない状態のため、通常のタイヤのように空気で荷重を支えることは出来ない。そこでオール金属製でありながらも柔軟に変形可能なタイヤを開発。月の柔らかく細かい砂の上でも安定して走れるよう、砂漠を悠々と歩くラクダの足のかたちからヒントを得てつくられたという。
成功すれば世界初⁉ 日本が目指す火星衛星のサンプルリターン計画

NASAなどの探査機から送られてきたデータをもとに作られた、映像展示「火星ツアー」が臨場感にあふれている。太陽系最高峰のオリンポス山や7000メートルの大渓谷の上をダイナミックに飛行し、火星の表面へと降り立って生命の痕跡を見つける旅を、4Kの高精細映像にて追体験することができる。探査機が採取した火星のリアルな音や、まるで抽象絵画のように美しい火星表面の映像にも注目したい。
このほかには、小惑星探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」が持ち帰った実物の小惑星「イトカワ」と「リュウグウ」の粒子も見どころ。さらに「はやぶさ2」に続く挑戦として、火星の衛星フォボスから試料を持ち帰るサンプルリターン計画についても紹介されている。いつか人類がSFドラマのように銀河系を縦横無尽に行き来することを空想しつつ、宇宙の未知なる領域に挑む研究者たちの軌跡を『深宇宙展』にて目の当たりにしたい。
特別展『深宇宙展~人類はどこへ向かうのか』To the Moon and Beyond
開催期間:開催中〜2025年9月28日(日)
開催場所:日本科学未来館
東京都江東区青海2-3-6
開館時間:10時〜17時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:9/2、9/9、9/16
入館料:一般 ¥2,200 ※一般は19歳以上
https://deep-space.jp