現代アートの“いま”が岡山に集結! 新美術館「ラビットホール」誕生

  • 写真・文:中島良平
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3階展示風景より、フィリップ・パレーノ『My Room Is Another Fish Bowl』2018年 魚型のヘリウム風船が展示空間内を浮遊し、展示室全体を水槽に変えることで新たな知覚体験を提示。アートの概念の拡張を試みる。

アーティストとして活躍する現代作家をアーティスティック・ディレクターに迎え、3年に1度開催される国際現代美術展『岡山芸術交流』が今年の秋に第4回を迎え、醤油蔵を改良した「福岡醤油ギャラリー(現在は、ラビットホール別館 福岡醤油蔵に改称)」や建築家とアーティストが協働して手がけたアートホテル「A&A」が開業して注目を集めるなど、この数年、現代アートの話題を振りまいてきた岡山。そしてついにこの春、そうしたプロジェクトに携わってきた公益財団法人石川文化振興財団の、「イシカワコレクション」を常設展示する現代美術館「ラビットホール」がオープンした!

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建物外観
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1階展示風景より、マーティン・クリード『Work No. 1350: Half the air in a given space』2012年 空間の半分の空気を風船に詰め、目に見えない存在としての空気を可視化。空間に入り、その不可視性を窮屈な体験で身をもって知ることもできる。

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旧文化施設を建築家の青木淳がコンバージョン

2011年よりスタートした「イシカワコレクション」は主に、彫刻やインスタレーションをはじめとするコンセプチュアル・アート作品で構成されている。その総数は400点超。今年の『岡山芸術交流』でアーティスティック・ディレクターを務めるフィリップ・パレーノや、幼少時にベトナムから難民としてデンマークに移住し、現在は世界を股にかけて活躍するヤン・ヴォー、現代社会の既存の倫理への強烈な疑義を作品に込めるポール・マッカーシーなど、作品自体のインパクトとその背景のコンセプトが組み合わさることで、多くのことを問いかけてくる作家の名が並ぶ。

「イシカワコレクション」の常設展示の場所に選ばれたのは、岡山で絵画や工芸品を蒐集した実業家の林原家がゲストハウスとして建てたルネサンスビルで、近年は岡山映像ライブラリーセンターとして利用されていた建物。建築家の青木淳の手により、この既存建築が美術館へとコンバージョンされた。建物の裏手が、林原商店(現・ナガセヴィータ)3代目社長である林原一郎(1908~1961)の古美術コレクションを所蔵する林原美術館と接しており、その石垣が壁面のガラスから見える特徴的な空間となっている。展示空間として使用するには、余計な装飾が多かったこの建物のコンバージョンについて、青木は次のコメントを寄せている。

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1階展示風景より 奥に見える石垣は、林原美術館の土台部分となる石垣の一部。中央のヤン・ヴォーによる『We the People (detail)Elements #B7.2』(2011)は、自由の女神像を断片化して立体化することで、帝国主義や植民地主義への批判を表明するのとあわせて、民主主義の脆さを浮き彫りにする。
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1階展示風景より、ミカ・タジマ『NEW HUMANS』2019年 素材は、1960年代にNASAが開発したという磁性流体。磁場の変化のアルゴリズムに従い、未知の生命体を思わせる集合体として動き続ける。

「普通なら、一度裸にした上で、そこに展示用の壁などを建てていくわけですが、しかしここではそれをやめて、展示空間として使用するのに、法的また物理的に、最低限必要なことだけをすることにしました。展示のたびに、必要なら壁を立てればよいし、場合によって床に穴を開けるなど、アップデートし続ける空間になる方がよいと考えたからです。期待しているのは、そうやって、次第にこの建物が壊されていき、最後には建物全てがなくなる、という未来像です」(プレスリリースより)

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ユーモラスな作品の裏にあるメッセージの数々

柿落としの展示タイトルは、『Hyperreal Echoes』。金沢21世紀美術館の元チーフキュレーターで、ラビットホールのディレクターを務める黒澤浩美がキュレーションを担当し、「インスタレーション、パフォーマンス、テキスト、映像、あるいはシンプルにアイデアを示すなど、多様なメディアを通してアートの本質とは何かについて探究した作家による代表作とも言える作品群」(黒澤による展覧会ステートメントより)が集められた。「高度に情報化されつつある現代では、より一層現実とシミュレーションの境界は曖昧になり、超現実状態が加速化」していることに着目し、ユーモアやアイロニーを通してモダニズムの理想への疑義を突きつける36点の作品が並ぶ。

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2階展示風景より 剥き出しになった床や壁と、真っ白な新しい展示什器が対照的。窓の外を見ると、岡山城からほど近いことがわかる。
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2階展示風景より、ポール・マッカーシー『Children's Anatomical Educational Figure』1990年頃 人体の構造や機能を学ぶ教育用フィギュアをもとにした作品。裂けた腹から飛び出した内臓が、身体や暴力の概念を大人が子どもにどのように伝えているかという問題について考えさせる。

1階から3階の展示を巡り、それぞれの作品を視覚的に、体験的に楽しみながら、そこに込められたメッセージを読み解いていくアート体験を味わう。そして、この建物が展示ごとに姿を変え、やがて構造のみを残して壊されていく未来に想像を広げる。美術館としての新たな存在方法を体現するラビットホールに足を運び、拡張を広げるアートの現在形を感じとってほしい。 

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3階展示風景より、アンドレア・ジッテル『A-Z Carpet Furniture: Cabin』2012年 ミニマルなデザインのナイロンカーペット。芸術性と実用性の両方を備えるこの作品は、日常生活とアートの関係を問い直す。
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フィリップ・パレーノ『Marquee』2014年 劇場や映画館の入口に設置された庇(ひさし)に着想したレトロな印象のこの作品は、プログラム制御によって有機的に明滅し、過去と現在の交錯を引き起こす。

『イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes』

開催期間:2025年4月6日〜未定
※約3年の継続展示を予定
開催場所:ラビットホール
岡山県岡山市北区丸の内2-7-7
TEL:086-230-0983
開館時間:10時〜17時 ※16時30分最終入場
休館日:月、火、水(但し祝日の場合は開館)、年末年始(12/28〜1/3)、展示替期間
入館料:一般¥1,800(18歳以下無料)
https://www.ishikawafoundation.org/museum/