マンチェスターの街に、その時々の風に応じて音楽を奏でる巨大なインスタレーション作品が登場した。市民から寄付されたギターで構成される「Cathedral of Sound(カテドラル・オブ・サウンド:音楽の聖堂)」は、頂上に設けられた旗が風を捉え、その動きをワイヤーによって伝達。無数のギターの弦を振動させる仕組みだ。風向きに応じて変化する音色が、音楽都市・マンチェスターに新たな音の風景を生み出す。
風が紡ぐ音のインスタレーション
マンチェスターのセントピッツバーグ広場を歩く人々が、思わず足を止める。視線の先には、金属フレームでできたジャングルジムほどの高さのドーム。ドーム周囲には300本を超えるギターが組み込まれており、整然と互い違いに積み上げられている。誰も見たことのない、楽器のインスタレーションだ。
マンチェスター・イブニング・ニュース紙によると、この作品は誰でも中に入って立ち、音楽に耳を傾けることのできるドーム状の構造となっている。アートスタジオ「ラゼリアン」のリアム・ホプキンス氏が手がけた作品だ。アコースティックギターとエレキギターが混在して音を奏でる。
作品の秘密は、頂上にはためく一枚の大きな旗だ。海外デザインメディアのデザインブームによると、旗が風のエネルギーを捉えることで、メカニカルな仕組みを通じて動力を伝達。ギターの弦を振動させ、風によって演奏される趣向となっている。折々の風の強さや風向によって、まるで生き物のようにその音色は刻々と姿を変える。
ホプキンス氏はイブニング・ニュースに、「人々が歩いていると、突然小さな音が聞こえるのです」と作品の不思議な音色を説明している。
市民が支えた音楽活動
作品を構成する300本のギターには、300の物語があった。今回完成した音の聖堂は、音楽活動を支援する地域のプロジェクトにより実現した。地元ニュースサイトのアバウト・マンチェスターによると、市民と著名ミュージシャンから300本以上のギターが寄付された。
デザインブームによると、住民たちは部屋の片隅に眠っていたギターや、壊れて音の出なくなったギターを次々と持ち寄ったという。きちんと演奏できるものは地元のミュージシャンの手に渡ったが、残りの一部壊れたギターたちが集められ、音の聖堂の一部として新たな生命を吹き込まれた。
市民の動きは、やがて大きな波となった。マンチェスターゆかりの著名ミュージシャンたちも次々と支援に加わった。アバウト・マンチェスターによると、バンド「オアシス」は、リアムとノエル・ギャラガーがサインしたエレキギターのエピフォン・リビエラを寄付。オアシスの広報担当者は「地域の音楽プロジェクトを支援できることを嬉しく思います」とコメントしている。
デザインブームは、このプロジェクトにより個人が使っていた楽器が、芸術作品へと生まれ変わったと指摘する。ヴィンテージの名器から傷だらけの愛用品まで、作品は様々な楽器で構成されている。
移りゆく音の風景
7月、Cathedral of Soundの巡回展示が始まった。芸術展示企画の一環として、マンチェスターの街を巡り始めた。イブニング・ニュースによると、都市の中心部での展示をすでに終えており、今後は緑豊かなメイフィールド公園へ移設される。ガラスとコンクリートに囲まれた都市の中心部から、木々が風にそよぐ公園へ。環境が変われば、風も変わり、作品が奏でる音楽も変化する。
折しも街は音楽の季節を迎えている。オアシスのホームカミング公演などで130万人以上の音楽ファンが訪れる、まさにその時期だ。Cathedral of Soundは生きた彫刻として8月31日まで、メイフィールドにその音色を響かせ続ける。