幅50cm、“世界最薄”のフィアット・パンダが問いかける未来の都市モビリティ

  • 文:宮田華子
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フィアット・パンダといえばイタリアを代表する庶民派シティカーとして知られるが、見た目からして常識を覆す「世界一薄いクルマ」が誕生した。車幅はわずか50cm。自転車のハンドル幅ほどのサイズしかない。だが驚くべきことに、これは単なる模型やアートではなく、きちんと走るフル機能の車なのだ。

幅50cm、走る“アートカー”は職人の手による一点物

この超スリムなフィアット・パンダは、イタリア・ロンバルディア州バニョーロ・クレマスコ在住の整備士、アンドレア・マラッツィによる手作業で製作された。ベースは1993年発売のフィアット・パンダ。オリジナルパーツの9割以上を使用しつつ、ボディとフレームを縦方向に劇的にスリム化した。

プロジェクトの拠点は家族経営のスクラップヤード兼工房だった。1年の製作期間を使い、たった一人が座れるだけの空間がある「薄い車」が完成した。

機能はすべて“フル装備”

一見「これって動くの?」と思わせる極細ボディだが、走行性能は本格的だ。前進・後退、ブレーキ、ハンドル操作、ヘッドライト、ウインカーまで完備されている。動力は電動スクーターから流用したモーターと24Vバッテリー。最高速度は時速15km、航続距離は約25kmと控えめながら、都市部の短距離移動には十分なスペックを持つ。

全長340cm、高さ145cm、重量はわずか264kg。もはや乗り物というよりは、移動する「作品」だ。

唯一の残念な点は、公道走行の認可を受けていないことだろう。そのため、使用目的はイベントなどでの展示に限定される。2025年6月、イタリアのパンディーノで開催されたフィアット・パンダ・オーナー向けのイベント「パンダ・ア・パンディーノ」でお披露目された。

 


「パンダ・ア・パンディーノ」で展示された「薄いパンダ」。

毎年開催のこのイベントだが、今年は「フィアット・パンダ誕生45周年」の記念すべき年。欧州各国から1000台以上の通常サイズのパンダが集結する中、この「薄いパンダ」は異様な存在感を放ち、観客の視線を一身に集めた。動画や写真がSNSで拡散され、世界中から驚きと賞賛の声が寄せられている。

ギネス世界記録に挑戦

マラッツィと彼のチームは、この車を「世界で最も車幅の狭い完全機能自動車」としてギネス世界記録に申請中だ。

元のフィアット・パンダの約3分の1の幅というこの極限の改造は、単なるカスタムを超え、機械とデザインの限界に挑んだ証といえる。加えて、都市の過密化と駐車スペース不足という現代的課題へのユーモラスな提案でもある。今後のモビリティのあり方を再考させるきっかけとなるかもしれない。