多角的なリサーチチームを結成した建築家の小野寺匠吾、建築を超えたプロジェクトを展開中

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:高野智宏
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小野寺匠吾●1984年、東京都生まれ。大学卒業後、SANAAを経て2018年に独立。大阪・関西万博の河森正治パビリオンの設計を手掛けたことをきっかけにリサーチチームを設立。この春、拠点となるスペースを開設し多彩な企画を実施、思案中。

セル(細胞)という無数のモジュールを積み重ねた構造が印象的な、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」。セルは会期後のリユースを前提に設計され、館のテーマである資源(いのち)の循環を体現したことも注目を集めている。この建物の設計を手掛けたのが、建築家の小野寺匠吾だ。

父は工業デザイナー、母は服飾デザイナーというクリエイティブな環境に生まれた彼が、幼少期に興味を示したのは建築だった。

「小さい頃住宅のモデルルームに行くのが好きで、母から建築家という職業があると教わりました。小学校の卒アルには『世界的な建築家になってホワイトハウスを建て替える!』と書いています。カルチャー全般で影響を受けた姉からも建築家は格好いいと聞いていたので、中学生の頃には自分でちゃんと決意を固めていましたね」

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事務所には海外からのインターンも所属する。入所やリサーチへの参加条件は「ボクらとのノリや楽しみ方などのヴァイブスが合うこと!」

成長につれ、想いは強固に。建築学科がある大学の付属高校に進学。在学中は、建築家は大勢のチームを束ねる能力も必要と考え、部員100人越の強豪アメフト部のキャプテンも務めた。

「スタディで思考を深め、模型づくりを繰り返す。コンペの激働、陶酔感の先の勝敗。建築はとても刺激的で体育会系だと感じます。この仕事を続けられるのは、部活で鍛えた根性とやんちゃさがあるからかもですね」と、苦笑する。

大学卒業後は妹島和世と西沢立衛が率いる建築事務所、SANAAへ就職。世界屈指の仕事場で多くのことを学んだと振り返る。

「締め切り直前までとことん改善を続けることが当たり前の環境だったので、その習慣や姿勢はいまも同じく受け継いでいます。またなによりも、世界を舞台に新しい建築や街を創造していく過程を見られたのは、SANAAだからこそ得られた貴重な経験でした」

2018年に独立し、小野寺匠吾建築設計事務所(OSO)を設立。住宅や店舗、公共施設など手掛けた作品は既に多岐にわたるが、転機となったのは、やはり万博のパビリオンの設計だった。

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事務所とOSOリサーチスペースの模型。右側の空間、オソスにはコーヒースタンドとキッチンを設置。飲食の提供やイベントも企画中だ。

「当初はスタディだけの業務でしたが、ある時プレゼンの機会をいただき、何案か模型を提案したところ、好評を得ました。以降、関係性が続き、結果的には基本設計のみならず、実務設計と工事監理にも携わることができました」

小野寺が最もこだわったのが環境への配慮だ。リユース前提のモジュール構造をはじめ、規格も海運時の効率化を考慮。またパネルには海水で練ったコンクリートを開発し、真水の枯渇問題への回答を提示した。そして、これら建築家の範疇を超えた活動は、小野寺を新たなステージへ導いた。

「このプロジェクトをきっかけにさまざまな専門家たちと協働するチーム、OSOリサーチを発足させ、リサーチや実験まで多岐にわたるプロセスをこのチームで行いました。現在、メンバーには文化人類学者や環境エンジニア、アーティストなどが参画しています」

チームは3つの指針、Restorative Design Exploration(建築やデザインを通じて環境を回復に向かわせる思考)、Going Beyond Architecture(建築を超えていく活動)、そして、Social Engagement(社会的意義のある発信)を核に活動を展開、企画中だ。

そしてこの春、事務所に加えチームの拠点としても機能するOSOリサーチスペースを開設した。

「略して『オソス』です。ここはチームがキュレーションした展示会やイベントなどを行うとともに、街やコミュニティに開放し活用していく“機能のない余白”として位置付けています」

現在開催中の「OSOリサーチってなに?展」に続き、パビリオンの設計から材料開発に関する舞台裏も含めた『Architectural Journey展』を予定。また今後は、環境回復型のコーヒーや薬膳台湾朝ごはんの提供なども検討中だ。

建築という枠にとどまらない小野寺の余白は、これからも多方面に広がり続ける。

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島根県海士町で実験中のOSOリサーチの企画。コンクリ柱に海藻を繁殖させた森を生成、CO₂を取り込み海底に炭素を固定させる。

 

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河森館のセルで別の建築をつくるリユースプロジェクト用のスタディ模型。現在、沖縄の教育機関でのリユースが検討されている。

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PICK UP

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大阪・関西万博 シグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」アニメ監督・河森正治のシグネチャーパビリオン。小野寺の設計による、セルを積み重ねた構造が印象的だ。館内では最新のデジタル技術を駆使した壮大な映像体験ができる。© Ichiro Mishima

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PERSONAL QUESTIONS


好きな朝ご飯は?

国際薬膳師として活動する妻(有田千幸)がつくる台湾おにぎりと豆乳スープ。週に1回、近所のカフェで薬膳ベースの台湾朝ごはんを提供していて、オソスでの提供も予定しています。

煮詰まった時にやることは?

養子として引き受けた雑種の愛猫、「小野寺ぱぱぱ」に顔を埋め、癒やしてもらっています(笑)。2018年にアダプトしているので、いまは7歳になります。

大きな仕事が終わった後にすることは?

広島の義父の実家をリノベーションした「蔵宗の家」に車で行き、所有する畑で1週間ほど農作業に従事します。二拠点生活を通して、地域との交流を広げていきたいです。

いまハマっていることは?

ヴィーガンおつまみ研究。日本ではあまり食の選択肢がありませんよね。自分はヴィーガンではないけれど、環境にも健康にもいいので、オソスで定期的に食事会を開催したいです。