旅多きファッション人3名が語る、夏旅に「これだけは持っていく服」<後篇>【着る/知る Vol.199】

  • 写真・文・編集:一史
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ファッションのプロが旅や出張に持っていく服装は、生活に必要な最小限のワードローブ。彼らの持ち物から現在の大人スタイルを探るこの記事の後編では、パリ・ファッション・ウィークから帰国したばかりの2名の旅アイテムを見せてもらった。
※前編のリンクは記事末の枠線内に。

百貨店のメンズをモダンにする氏家友彦。今夏のパリ出張で着た機能美ウェア

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2025年6〜7月のパリ出張に持っていった荷物からセレクトした旅のマストアイテム。

百貨店の高島屋で国内外のブランドとタッグを組み、別注アイテムやイベントを企画している氏家友彦さん。高島屋には「CS ケーススタディ」のように自主編集売り場(百貨店が自ら運営しているセレクトショップ)があり、これらの若手バイヤーを束ねる役割も兼任する。肩書は「MD本部 紳士服・紳士雑貨・スポーツ部 担当部長/マーチャンダイザー」。得意ジャンルはコンテンポラリーファッションだ。
年2回の世界のファッション・ウィークに出かけるのも重要な仕事のひとつ。コレクションを見て展示会を訪れ、各ブランドと親睦を深める。そんな彼の旅行着は、モードから古着までジャンルを越境する自分流モダンだ。

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タークのドレッシーなジャケットを、トーガ × スイコックのサンダルでドレスダウン。今回のパリでよく着た組み合わせ。

ときには高級ホテルで商談することもある。夏でもフォーマル調のジャケットは欠かせない。今回のパリ出張に選んだ特別な一着がタークだ。
「クリエイティブな発想に惹かれて買ったジャケットです。着るほどに良さに気づいていく魅力的な服です」
氏家さんがそう語る愛用品は、ボディがジャケット、袖がシャツのハイブリッド。大きな特徴は使われた布にある。服の中央部分から脇に掛けて、グラデーションで織りが切り替わっていく。厚い布から透ける薄い布へのトランスフォーム。タークが日本の工場と開発した、世界でもほかにないオリジナルの布だ。
仕立てもジャケットからシャツへ自然に移る視覚効果が計算されている。通気性がよく夏に快適な機能面も大切にされた服である。

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「これ一着でフォーマルな場にも対応できます。ふだんは袖をまくって着ることが多いですね」。シャツ替わりに羽織れる軽快なジャケットだ。

氏家さんが海外出張にこれを持っていく理由がもうひとつある。それはタークが日本発信の服であること。
「以前よりも海外で日本の服を着ることを誇りに思うようになりました。自分がいい歳になったからでしょうか。タークのジャケットに組ませてよく履いたサンダルも日本ブランドです。パリ・ファッション・ウィークでは親日家も多くいますし、日本人のアイデンティティとして自国の服を大切にする思いが年々高まっています」
デザイナーやスタッフと付き合いがあり、“つくり手の顔が見える”ブランドだからこそ、思い入れがより深くなるようだ。

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旅用時計は機能的なGショック。ソーラー充電式でバッテリー切れの心配がなく、スマホ連動で時刻合わせできる。

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旅歩きの荷物は最小限に。トーガ(トーガ トゥ)の巾着バッグは色のアクセントにも大活躍。

持ち歩くバッグにもこだわりがある。大きいものは使わず機動性を重視。
「ホテルから食事に出かけるときなどでは、トーガの巾着が便利です。ショルダーも付属してるから肩下げも可能。よくやるのはハンドストラップを手に巻き付けて掴む持ち方です」
このバッグは2つの袋をドッキングさせたもので、収納部が2つある。片側が華やかなプリントで、片側が黒一色。合わせる服装に応じて表に出す色を使い分ける。

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シンプルなY-3のウエストバッグには驚きのギミックが。フラップのファスナーを開くと……、
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リュックが出現!ウエストバッグの収納部分がリュックの底になる。
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縦長で細身のシルエットもスタイリッシュ。ファッションに妥協しない実用バッグだ。

このウエストバッグも旅の必需品。移動途中に荷物が増えたとき、収納されたリュックを引き出して使う。リュックを畳んだウエストバッグ状態のときでも収納力が高い。
「日中の移動がこれひとつで間に合うバッグです。Y-3というブランドもいいですよね。ヨウジヤマモトとアディダスとのコラボブランド」
ここにも日本のアイデンティティが息づく。

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旅、日常生活、アウトドアでフル活用しているユーティリティベスト。右のカーキはフレッシュサービスで、左の黒はコロンビア。

ミニバッグさえ必要ない手ぶら服も便利に使える。アウトドアライフも好きな氏家さんが近年街中でもよく着るのがユーティリティベストだ。
「Tシャツ1枚姿が苦手で、よく上にベストを羽織ります。今回の出張では黒とカーキの2着を持っていきました。ポケットが多くバッグ替わりになります。室内の冷房対策にも、Tシャツの汗じみ隠しにも便利。いまならファッションとして成立する服だと思っています」
今回の取材時に彼が着ていたメッシュベストは、イギリスのオンライン音楽ストリーミングプラットフォームであるボイラールームが手掛けた服。これを着てクラブに遊びに行く人がいる。若い世代も着目するストリートスタイルだ。

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左は20年来愛用しているペルソールの折り畳み式サングラス。右は最近購入したZoff×UNITED ARROWS。

折り畳み式サングラスも夏の必須アイテム。最近間に合せのつもりで買ったZoffの品が意外なヒットだったらしい。
「低価格=低品質のイメージを覆してくれました。メガネ好きの自分が感心するほどの出来栄えです。いまメガネの価格がすごく高くなってますよね。気軽に使いたい人にお勧めできます」

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“世界最小の洗濯機”と謳われているスクラバのウォッシュバッグ。上の洗剤は洗濯ブラザースが開発したリブレの製品。

最後に紹介する旅グッズが洗濯用品。期間の長いホテル滞在にこれがあると安心できる。
「毎日着替えるソックスなどを自分で洗えば、何足も持って行かずに済みます。ホテルのシンクでも洗えますが、シンクの調子が悪いケースもあります。ウォッシュバッグがあればどこに行っても安心です。このバッグと洗剤は、仕事で関わりのある洗濯ブラザーズに教えてもらったもの」
ヨーロッパ出張では2週間近くのホテル滞在になる。ストレスなく過ごすためには、ライフラインのケアが欠かせない。愛用のアメニティやコスメを持って行くことも、氏家さんが考える旅を快適にするエッセンスのひとつだ。

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フランスで人気のランニングブランド、CIRCLEのTシャツとキャップ。日本の漫画から影響を受けたイラストも、言葉もユーモラス。サステイナブル素材にこだわるなどモノづくりの姿勢にポリシーがある。
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パリで地元のランナーコミュニティを形成している彼らに倣い、日本でもカルチャーの切り口で展開する予定。

日本未上陸のパリのランニングウエア、CIRCLEを高島屋で扱う新プロジェクトがスタート。
「フランス本国では有名百貨店で取り扱われている人気ブランド。街着になるデザインが現代的です。彼らが自分たちの店で運営している走るカルチャーを日本でも表現したくて、いまイベントを計画しているところです。皆さんに披露できるのが来年になるかもしれませんが、楽しみにお待ちください!」
アウトドア、自転車などのカルチャーも発信してきた氏家さんの次なる仕掛けに注目したい。

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海外ブランドのディストリビューター、茶原泰憲。全身ブラックの服をパリでも

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ミニマルに絞り込んだ茶原泰憲さんの旅の基本ワードローブ。仕事のエッセンスも込めた厳選アイテムだ。
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黒のモードを着こなす、ミュージシャンのような佇まいの茶原さん。穏やかな話し方とのギャップにも魅了される人物だ。

「つくり手の創造性に惹かれることが取り扱いの条件」と語る、海外ブランドのディストリビューターの茶原泰憲さん。日本では自身の会社のワンダーラストに服のサンプルを並べバイヤーに見せる。海外出張では取り扱いブランドがショーを行うとき、来場者のアテンドで現場を走り回る。
その彼が選んだ旅アイテムは、見事なまでに黒一色。モード最前線で歩んできた人生の色だ。

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自身のワードローブもおのずから自社取り扱いブランドが多くなる。左端のTシャツはEGY BOY、キャップとフーディはブジガヒル。ブジガヒルはともに古着のリメーク品だ。

「今年夏のヨーロッパ出張は、フランス・パリとドイツ・ベルリンでした。合計で2週間ほどの旅になりました。今回は短かったですね」
そう話す彼は長くパリに滞在するときは部屋を借り、自炊しながら日々を暮らす。若い頃にバックパッカーとして世界を巡った旅好きならではの自由な生活スタイルだ。

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左右で別の服をドッキングさせたデザイン。緻密な仕立てで古着リメークと気付かないほど完成された美しい服。

ブジガヒルはドイツでファッションを学びフランスのハイブランドで働いたデザイナーが、生まれ国のウガンダに戻りアフリカの古着問題に取り組むブランド。コンセプトとデザイン力に惹かれた茶原さんが日本でのディスリビューターを担当している。そのブジガヒルに自分用に特別な一着をつくってもらったのがこのフーディーだ。
「ブジガヒルがあまり使わない黒で仕立ててもらいました。一年中フーディーを着ている人間ですから、夏旅にも欠かさず持っていきます。飛行機内など寒い場所で着てますね。夜に寒い土地に行くときにも大活躍」

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脚長の人だから似合う、股上が浅く裾がフレアのスラックス。ジョンローレンスサリバンのアーカイブモデルだ。

「夏に暑そうに見えるかもしれませんが、実は生地が薄く快適なパンツです」
ジョンローレンスサリバンのこのパンツは、光沢のあるコーティングが施されている。茶原さんは“夏に穿けるレザーパンツ”と位置づけている。
「とにかくシルエットがきれいなんです。革靴によく合いドレッシーな印象。ヨーロッパ出張ではこのようなパンツを1本は持って行きます。ショー会場で来場者をアテンドするとき、パーティーイベントに行くときなどに必要な服です」
20年頃に購入して穿き続けている愛用のパンツだ。

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パラボロイドのブーツは、「スニーカーをよく履く人でも足に馴染む歩きやすさ」。アウトソールは部分的にゴム貼りされたレザー。

「まさにいまの気分のシューズです」
そう彼がプッシュするのがレザーシューズのパラボロイド。かつてランバンやジバンシイのシューズを手掛けていたデザイナーが独立して2024年に設立したブランドだ。
「いい出会いがあって取り扱いを決めました。この秋冬から日本に初上陸します」

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2種類のインソールが仕込まれ、見た目ではわからない身長アップ効果も。

重厚な見た目とは裏腹にカップインソール仕様だ。そのレザーインソールは分厚いクッション材つきで、その下にさらにフェルトのクッションが敷かれている。実際に旅で歩き回り優れた機能を実感してきた。
「最近までハイテクスニーカーばかり履いていましたが、これに替えても足に負担を感じませんでした。パリ・ファッション・ウィーク中は道路が大渋滞しますので、地下鉄と徒歩での移動がベストです。すごく歩くのですが、パラボロイドなら問題なかったです」

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服以上に旅に欠かせないのがこのアクセサリー3点。どんなときでも気持ちを整えてくれるマストアイテムだ。

最後にお見せするのが、手につけた3点のアクセサリー。身につけていると安心できるお守りのような存在だ。
「シルバーのリングとブレスレットは、スウェーデンのKULTURE5のもの。デザイナーの故郷の海の波や船のロープにインスパイアされたデザインです。つけていると、いい“気”が流れているようで心地よくなれます。右手のブレスレットは地元の和歌山の熊野本宮大社で最近購入したもの。天皇の即位式で重要な役割を持つという麻(大麻)と絹でつくられています。都会暮らしでずれてしまいがちな心を整えるのに役立つアクセサリーです」

旅に本当に必要なファッションアイテムは、自分らしくいられるものが一番なのだろう。どの土地にいても自身のアイデンティティを思い起こさせてくれる。家に溢れ返った服の山を整理するときもこの目線で断捨離すれば、無駄のないミニマルなワードローブをつくれるかもしれない。

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茶原さんのもうひとつの顔がワインショップのオーナー。自然派ワイン専門店で、世界の産地の畑に出かけてブドウの出来栄えを確かめるほどの本格派。常時400種類ほどのワインを揃え、ECショップからの発送でも温度管理に一切手を抜かない。趣味が高じて仕事にした彼のショップ「WANDERLUST WINESHOP」が気になる人は、記事末の枠線内に掲載したインスタグラムをチェック!

CS case study/高島屋

www.takashimaya.co.jp/store/special/casestudy/

WANDERLUST WINESHOP

www.instagram.com/wanderlust_wineshop/

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高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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