宇宙を目指したロケットの廃材がスピーカーに変身! 無重力から着想を得た「DEBRIS」がデビュー

  • 文:今井未央
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宇宙を目指したロケットの燃料タンクが、ユニークなスピーカーに生まれ変わった。
 
噂のプロダクトを手がけたのは、空間づくりのプロフェッショナル乃村工藝社グループによるR&Dプロジェクト「noon by material record」と、宇宙開発の廃材アップサイクルに取り組む「&SPACE PROJECT」。両者の共創により生まれたのが、このロケット廃材を使った体験型アートピース「DEBRIS(デブリ)」だ。
 
重力が存在しない宇宙環境からインスピレーションを受け、一般的なステレオスピーカーが持つ“指向性”をなくした“無指向性”のスピーカーを設計した。音の広がりに包まれ、まるで宇宙空間を漂うような浮遊感のある音体験が味わえる。

ジュラルミン製のタンクと、その上にふわりと浮かぶように配置されたアンテナや金属のオブジェが、無重力下で静かに揺れる宇宙の情景を彷彿とさせる。

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金工作家の外山和洋氏による球形のオブジェ。鉄・銅・アルミなど地球の元素である無機質な金属を一度完全に溶かし、有機的な形に再構築することで素材の記憶を表現。宙に浮かぶ架空の鉱物を想起させ、ロケットが夢見たロマンを描いたという。画像:AKIHITO ENDO

 

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「宇宙は重力が無く、上下左右という概念が存在しない」ことから着想を得て、360度に音が広がる“無指向性”構造を採用した。画像:AKIHITO ENDO

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素材に用いられたのは、宇宙産業が盛んな北海道・大樹町の宇宙港で、実際にロケットの打ち上げ試験に使われた燃料タンク。用途を終えたその構造体に、素材としてのポテンシャルと美しさを見出し、音響機器という全く異なる領域へと再構築。
 
さらに、世界で活躍するトラックメーカー/DJ GONNOとともに燃料タンクが生まれた大樹町の風や波、発射台のビーコン音などを収録するフィールドレコーディングを行い、オリジナル楽曲も制作した。

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北海道・大樹町にある民間に開かれた宇宙港「北海道スペースポート」画像:SPACE COTAN

 

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「DEBRIS」の製造シーン。燃料タンクを溶断し、スピーカーに加工していく。

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“役目を終えた”ロケットタンクをスピーカーとして甦らせるという発想はどのように生まれたのか——。その起点となったのは、「素材=地球資源」を掲げ、建築廃材・食品廃棄・海洋プラスチックなど、さまざまなマテリアルで構成されたスピーカーを制作してきた「noon by material record」と、ロケットの廃材活用に取り組む「&SPACE PROJECT」との出会いにある。
 
乃村工藝社は、大量の資源を扱う建築・内装業界に身を置く企業だからこそ、素材と真摯に向き合い、持続可能な未来のあり方を模索してきた。そんな彼らの取り組みと、宇宙産業の活性化を目指す「&SPACE PROJECT」のビジョンが共鳴し、「DEBRIS」という新たなプロダクトが誕生した。

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ロケット廃材で作られた「DEBRIS」。無重力下で物体がゆっくりと揺れているような姿をイメージ。画像:AKIHITO ENDO

 

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FRP製(樹脂製)の無指向性アンテナを伝って、360°全方向に音を出力。画像:AKIHITO ENDO

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「DEBRIS」では、今後さらなる発展が期待される宇宙産業というフィールドに着目することで、資源、地域、そして宇宙に目を向けるきっかけを生み出した。

「DEBRISは単なる音響装置ではありません。素材、空間、音、ストーリー——そうしたものが交わる装置です。そこから流れる音が、どこか遠くの、けれどとても身近な“宇宙”について考えるきっかけになってくれたら、と願っています」とデザイン・設計を担当した乃村工藝社の小山田は語る。


今後は、「DEBRIS」の音を実際に体感できるイベントや貸し出しなども予定されているそう。気になる人は、公式サイトで最新情報をチェックしてみよう。

『DEBRIS』

https://debris.and-space-project.jp