フランク・ロイド・ライト建築をキャンピングカーに再現、限定200台「ユーソニアン」モデルが発表

  • 文:宮田華子
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アメリカの高級キャンピングトレーラーのブランドとして知られるエアストリーム社が、フランク・ロイド・ライト財団との共同開発による限定モデル「ユーソニアン・リミテッド・エディション・トラベルトレーラー」を発表した。全長約8.5メートル、限定200台のこのトレーラーは、「車」という小規模な空間に建築的な美意識を融合させたプロジェクトである。

設計は、オハイオ州のエアストリーム本社と、アリゾナ州スコッツデールにあるライトの旧邸(冬用の別荘)「タリアセン・ウエスト」を拠点とする財団のデザインチームが共同で手がけた。曲線を描くアルミニウム製のボディに包まれた内部空間は、フランク・ロイド・ライトが1930年代以降に提唱した「ユーソニアン建築」の理念を現代的に解釈したデザインとなっている。

「ユーソニアン建築」とは?

ユーソニアン建築とは、ライトがアメリカの中産階級のために設計した合理的かつ詩的な住宅シリーズに付けた名称。「自然との調和」「開放的な平面」「多用途な空間」「ビルトイン家具」などを特徴とする。簡素でありながら豊か、個人の暮らしに寄り添う構成が意識されており、それらの原理がこのトレーラーにも巧みに取り込まれている。

 


フランク・ロイド・ライト(1867-1959)。旧帝国ホテルの設計でも知られる。

光が満ちる、開放的な住空間

車内に入ると、まず印象的なのは空間に満ちる「光」だ。29か所に配された窓は、側面だけでなく天井にも設置されており、自然光が車内にあふれる。頭上収納の多くが省かれていることで、開口部の高さが確保され、屋内にいながらも外との連続性が感じられる。特に後部のハッチドアを開放すれば、ソファスペースがそのまま自然と地続きになり、まるで屋外のリビングルームのような感覚を得ることができる。

変化に富んだレイアウトと上質なディテール

内部は最大4名までが快適に過ごせるよう設計されており、旅先であっても、日常と変わらぬくつろぎを確保する工夫が随所に散りばめられている。

前方のラウンジエリアは、ソファ、ダイニング、デスク、ベッドと用途に応じて変形可能で、必要な時だけ現れる収納式の家具も設置されている。後部には2つのソファベッドがあり、ボタン1つでキングサイズベッドに早変わりする。

照明器具やドア、ランプシェード、スクリーンドアなどには、ライトの弟子ユージーン・マセリンクによる幾何学模様「ゴードン・リーフ・パターン」が繊細に施されている。木製スラット天井やフローティングシェルフ、開放的なレイアウトもタリアセン・ウエストの意匠を彷彿とさせる。配色は1955年のライトによるペイントコレクションをベースに、ターコイズや赤土色などアメリカ西部の自然を思わせるアースカラーでまとめられている。

技術と自然が調和する、モダンな旅のかたち


機能面でも、現代的な快適さをしっかりと備えている。屋根には300Wのソーラーパネルが搭載され、2.5kWhのリチウムバッテリーと組み合わせることで、オフグリッド環境でも電力供給が可能だ。Bluetooth対応のスマートテレビや高品質スピーカー、USBポートやLED照明などの装備は、美しいデザインを損なうことなく空間に溶け込んでいる。

価格は184,900ドルから。限定200台のうち、最初の数台は2025年夏からアメリカ国内の販売店に出荷される予定だ。エアストリームの伝統と、ライトの「より少なく、より美しく」という理念。その融合は、ただの乗り物ではなく、建築と旅の美学が融合した芸術作品と呼ぶにふさわしい。