国立西洋美術館にて開催中の『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展—ルネサンスからバロックまで』。音声ガイドナビゲーターを、元宝塚歌劇団月組トップスターで、ドラマや映画声優でも活躍中の月城かなとが務めている。その月城に素描や展覧会の魅力をはじめ、日頃のアートとの接し方について聞いた。
スウェーデン国立美術館の素描コレクション約80点が来日!

世界屈指の質を誇る、スウェーデン国立美術館の素描コレクション約80点が来日した本展。素描は光や湿度の変化の影響を受けやすく、海外の作品が日本でまとめて公開される機会は限られてきた。しかし、今回はデューラーやルーベンス、レンブラントなどの作品も揃い、画家たちの技量や構想力が凝縮された素描を存分に味わえる。
「まず素描ってこんなにカラフルなんだ!ということに驚きました。以前は黒い線だけで描かれているイメージがあったのですけど、中には下絵とは思えないほど1つの作品として完成度の高いものがあります」
「素描の下の方にメモ書きがあったり、描き直しの跡なども見られて、画家たちが試行錯誤をしているのが分かるのも面白いです。ここにこういう色を使うんだという発見も少なくない。あとは描けそうで描けないというか、名だたる巨匠たちは素描も素晴らしいです。細かい表現を見ると、対象を的確に描くために、日頃の観察眼も凄いのだろうなと…。優れた作品を生み出すには、ものをしっかりと見る力が必要なのだと思います」---fadeinPager---
月城かなとのお気に入りの3つの作品とは?

イタリア、フランス、ドイツ、ネーデルラント(現在のオランダ、ベルギーにあたる地域)の地域別に、ルネサンスからバロックまでの素描作品が並ぶ展示室。月城はそれらを見ていくうちに、今まで気づかなかった素描の魅力を知ったという。そんな彼女に、お気に入りを3つあげてもらった。
「第4章『ネーデルラント』のコーナーには聖書の物語や風俗、動物などさまざまな主題の作品が見られますけど、その中に展示されているコルネリス・フィッセルの『眠る犬』はイチオシですね。まるで犬の寝息が聞こえそうなほどにリアルでかわいい。すやすやと眠っているなあって」

「第2章『フランス』に展示されているコスチュームデザインの中から、ニコロ・デッラバーテに帰属する『蛙男』も楽しいです。パッと見た目は衣装デザインと思えないくらいユニークで、こんなコスチュームが16世紀のフランスで実際に着られていたんだと思うだけでもワクワクします」
フランスでは1520年代後半から国王フランソワ1世によって、フォンテーヌブローの宮殿の再建と増築が着手される。同宮殿には各国から招聘された芸術家が集まり、建築や装飾、それに宮廷で催される仮装行列やショーのためのデザインに従事していた。ニコロ・デッラバーテもその一人とされている。そして月城は気に入った最後の1点に、ルネ・ショヴォーによる 『テッシン邸大広間の天井のためのデザイン』を挙げた。

「パリで生まれたルネは、スウェーデン国王のカール12世の首席彫刻家としてストックホルムに赴くのですけど、その彼が同国の建築家であるテッシンの邸宅の天井画のために描いたデザインです。これこそ一般的な素描のイメージを覆す作品。色鮮やかで、近くで見ると、華やかな金色の線も浮かび上がってきて、とても美しいのです」---fadeinPager---
「どの絵だったら家に飾りたい?」展覧会をより楽しむためのヒント

初めて展覧会の音声ガイドナビゲーターに挑戦した月城だが、実はかねてより大のアート好き。普段も美術館へと出かけ、現代アートを含めたさまざまな展覧会を見に行くという。
「美術館に行くのが好きなので、いつか音声ガイドナビゲーターの仕事ができたら素敵だと思っていました。音声ガイドでは作品の背景などを解説していますけど、聴きながら一緒に展覧会を巡っているような気持ちになってもらえれば嬉しいです」
「こう感じて欲しいと強制するのではなくて、いろいろな感想を共有できれば良いと思いますね。一緒に見ながら、この絵ってこの部分が素敵だよね、というような気持ちが大切。それに私は作品を見ながら、つくり手は何を伝えたいんだろうとよく思います。あとは展示されている作品を一通り見終えてから、また気に入った作品に戻ったりもする。好き嫌いせずに、分け隔てなく見るようにしています」

何かと敷居が高く感じられる美術鑑賞。アート好きの月城に展覧会をよりカジュアルに楽しむためのヒントを聞いた。
「どの絵だったら家に飾りたいかなと考えながら見ていくのがおすすめです。今回も『眠る犬』を部屋のどこに飾ろうかな…とか。天井画のデッサンも、実際に置けるかは別として、これが家の天井にあったら凄いかも、と想像を膨らませます。また作品を見ながら、どれを持ち帰りたいかなという視点で人と感想を言い合ったりしていると、好みが違ったりするのが分かるのも楽しいです」---fadeinPager---
線の繊細なタッチなど、素描ならではの魅力を間近で感じて欲しい

素描は木炭やチョーク、ペンなどを用いて対象の輪郭、質感、明暗などを表現した、線描中心の平面作品を指す。その制作目的は、絵画や彫刻などの構想を練ったり、下絵を作ったり、完成作品の記録をしたりとさまざまだ。月城はそうした素描にまとめて触れる体験がとても贅沢であるという。
「今回の展覧会がなければ、素描というものをここまで注意して見なかったかもしれません。今までも素描作品を観る機会こそありましたが、素描だけをたくさん見るということ自体がとても新鮮です。だからこれから行く展覧会に素描があったら、今までよりもじっくり見ると思いますね。また逆に有名な油絵を見た時に、どんな素描が元になっているんだろう?と想像すると思います」

「素描を語る」という新しいチャレンジを経験した月城に、今後取り組んでみたいアートに関する仕事について聞いた。
「アートを見ることも好きですけど、作品が置いてある空間そのものにもすごく興味があります。この国立西洋美術館の建築も素晴らしいですけど、美術館は建築によってさまざまな個性を持っています。それに壁の色とか照明も気になったりしますね。だから日本や世界の美術館を巡って、その魅力を紹介するような仕事がしたいです。それに建築に見合った衣装を着たりするのも良さそう」
「美術館がどういうきっかけでつくられ、どのような人々の手によってに今に受け継がれてきたのかにも関心があります。またアートを制作しているアーティストさんの話を聞く取材もしたいですね。同じ表現者として何を目指すのかがすごく気になります」

最後に本展の魅力について教えてもらった。
「スウェーデン国立美術館の素描コレクションが、日本でこうしてまとまって展示されるのは今回が初めてです。比較的小さな作品が多い素描は、実際に生で見るのが一番。この展覧会を通して線の繊細なタッチや紙の柔らかい質感など、素描ならではの魅力を間近で感じて欲しいです」
『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展—ルネサンスからバロックまで』
開催期間:開催中〜2025年9月28日(日)
開催場所:国立西洋美術館
東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9時半〜17時30分 ※入館は閉館の30分前まで
※毎週金・土は20時まで
休館日:月、7/22、9/16
※7/21、8/11、8/12、9/15、9/22は開館
入館料:一般 ¥2,000
https://drawings2025.jp