メンズウェア界の重要人物から世界的靴職人、ミラノデザインウィークにも出展するクリエイティブディレクターまで、各界の目利きが独自の視点で選ぶ2025年の新作腕時計。ファッションやデザインの世界で活躍を続ける5人の、それぞれの推薦理由とそのこだわりを探った。
9の視点で紐解く、2025年の新作腕時計
今年も個性豊かな新作腕時計が、華々しく登場した。世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025」は、過去最大の約55000人を動員するなど、いまなお腕時計の人気を実感させるイベントだ。今回は2025年の新作時計の中から、9つの視点から整理して紹介していこう。ダイヤルやムーブメント、カラー、素材、手仕事にテクノロジー、そして歴史。腕時計を構成する要素は果てしなく多い。だからこそ、視点の違いで解像度は大きく変わる。大量の新作を前に、あなたが悔いのない選択をするためにも、そのヒントをお教えしよう。
『ようこそ、 ヴィンテージへ』
Pen 2025年8月号 ¥990(税込)
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傷さえも魅力に変える、ゴールドフェイスに個性が宿る

「傷がつきやすいところが好きなんです。自分の経験や個性が腕時計に刻まれるという点に魅力を感じます」
香港発のクラシックメンズウエアショップ「アーモリー」の共同創業者であるマーク・チョーが選んだのは、ゴールドで覆われたフェイスが特徴のルイ・ヴィトンの新作。いつも円を描くように腕時計を拭く癖があるというチョーだが、その習慣により、愛用する鏡面仕上げの文字盤には円状の跡が残る。これを“毎日の行動の吸収”と表現し、気に入っているという。腕時計を選ぶ際はフォーマルなシーンを想定し、手首にフィットすることも重視する。服を通じて人の個性を引き出すという「アーモリー」の哲学と同様、腕時計もスタイルの一部だ。
「この時計は洗練されていて控えめ。カジュアル過多の流れから脱した、いまの時代性に合っています」
ルイ・ヴィトン「タンブール オトマティック コンバージェンス ピンクゴールド」

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手仕事への深い共感で、靴職人が惚れる“最高の普通”

靴職人であり、30本以上を所有する腕時計マニアでもある福田洋平は、ナオヤ ヒダ アンド コーの新作を推薦。サイズ感、腕馴染み、デザイン、素材、クラフツマンシップなど、あらゆる面で「最高の普通」という美学が貫かれている点に惹かれてしまうという。
「クラシックの本質を知りながら現代版にアップデートさせてつくられているところや、日本人らしい細部へのこだわりに共感します。この時代に、文字盤の数字からすべて手彫りでやっている工房はなかなかありません」
老舗ブランドの時計も所有するが、伝統に縛られない少量生産体制ならではの自由な創作に魅せられている。
「ダイヤルに使用したスターリングシルバーは、これまでのジャーマンシルバーと比べて少し爽やかな青みがあって、面白い素材。新しい挑戦だと思います」
ナオヤ ヒダ アンド コー「NH TYPE 6A」

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控えめだから見飽きない、精緻なつくりの“感じる”腕時計

「計るためではなくて、感じるために」。ファッションや家具などのショールーム、エンケルを主宰する水澗航が語る腕時計観は、デジタル時代の本質を突いている。
「腕時計を着けている時間をどのように過ごしたいか。所有感や手首の感覚、そういう個人的な満足感を得られるかどうかを重視しています」
今回挙げたパルミジャーニ・フルリエの新作は、ストーンブルーの文字盤が選ぶ際の決め手になったという。
「石のようなマットな質感でありながら、光の当たり方で表情を変える奥深いカラーリングに魅力を感じました」
さらに「一見してブランドがわからない」と水澗も語る通り、ロゴも装飾も抑制的だが、よく見るほどに精緻なつくり込みが際立つ。「見飽きない、シンプルなものに惹かれる」という水澗には理想の一本かもしれない。
パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF オートマティック」

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素材研究の視点で選ぶ、自然への敬意を込めた一本

クリエイティブディレクターの小野直紀は、2020年にデジタルとアナログの要素を融合したラドー「トゥルー スクエア アンデジタル」をデザインし、今年のミラノデザインウィークでは「蟻」が時間を示す『ANTS』という作品を発表するなど、時計との縁も深い。
既存の価値観を揺るがす作品を発表し続ける彼が注目したのは、H.モーザーの色鮮やかな新作。トルコ石と珊瑚を組み合わせたダイヤルが特徴的な一本だ。ロゴやインデックスのない究極のシンプルさが、天然素材の組み合わせによって“ポップ”な表情と奥行きを実現した。
「独特な素材感がいいですね。時計に限らずデザイン界では素材の研究が進んでいますが、天然素材を使うということは、自然に対して敬意を払うということ。環境への関心が高まるいまの時代にも通じるものがあります」
H.モーザー「エンデバー・スモールセコンド コンセプト ポップ」

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80年代のエネルギーが詰まった、心地よい懐かしさを纏う

「このタイミングで初代フォーミュラ1の復刻を知ったのは嬉しかった」と語る、スタイリストの池田尚輝。実は3年ほど前から、同コレクションのオリジナルモデルを愛用している。1986年に誕生したこのアイコンウォッチは、タグ・ホイヤーという新ブランド名の公式デビューと同時に発表されたコレクションでもあり、鮮やかなカラーリングと革新的なデザインでブランドの新時代を象徴していた。池田が特に魅力を感じるのは、F1ブーム全盛期だった80年代の空気感を現代に蘇らせる力だ。
「赤と緑の配色を見ていると、シティポップを聴いているような懐かしさがあります。ビッグサイズのポロシャツやバギーデニムに合わせ、80年代の気分で着けこなすのも素敵そう。ラバーストラップの質感がいまから迎える夏場のスタイリングにぴったりです」
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 ソーラーグラフ」


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