複雑機構とデイリーユースを両立! 時計ジャーナリストが最新のトレンドを分析

  • 文:並木浩一
  • イラスト:コサカダイキ
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今年も数多くの新作腕時計が発表された。本記事では、2025年に発表された新作から見て取れる時計界のトレンドを4つのトピックで整理。GPHGアカデミー会員の時計ジャーナリスト、並木浩一が代表的なモデルとともに解説する。

9の視点で紐解く、2025年の新作腕時計

今年も個性豊かな新作腕時計が、華々しく登場した。世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025」は、過去最大の約55000人を動員するなど、いまなお腕時計の人気を実感させるイベントだ。今回は2025年の新作時計の中から、9つの視点から整理して紹介していこう。ダイヤルやムーブメント、カラー、素材、手仕事にテクノロジー、そして歴史。腕時計を構成する要素は果てしなく多い。だからこそ、視点の違いで解像度は大きく変わる。大量の新作を前に、あなたが悔いのない選択をするためにも、そのヒントをお教えしよう。

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Trend1 デイリーコンプリケーション

日常使いを視野に入れたコンプリケーションが続々と登場している。ヴァシュロン・コンスタンタンの270周年を祝う三大複雑機構搭載モデルは、従来であればユニークピースでもおかしくなかったかもしれない。ところが軽さと耐久性に優れるグレード5チタンケースに、厚さわずか7.9㎜のムーブメントを納め、3気圧防水を実現したのである。オーデマ ピゲが新開発したパーペチュアルカレンダーはリューズひとつで操作できる上に、従来と同じケースサイズを維持した。複雑時計はコレクションケースから飛び出して、デイリーユースにおけるとびきりの一本という位置付けに変わりつつある。

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ グランドコンプリケーション オープンフェイス ミニッツリピーター」

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オーヴァーシーズ グランドコンプリケーション オープンフェイス/ミニッツリピーター、永久カレンダー、トゥールビヨンの三大複雑機構を搭載。手巻き、チタンケース&ブレスレット(交換可能なアリゲーターとラバーのストラップが付属)、ケース径44.5㎜、パワーリザーブ約58時間、シースルーバック、3気圧防水。¥31,240,000/ヴァシュロン・コンスタンタン TEL: 0120-63-1755

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」

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ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー/従来は操作が難解である永久カレンダー機構を、すべての表示の修正を3段引きの“オールインワン”リューズだけで行える、新開発「Cal.7138」搭載。自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径41㎜、パワーリザーブ約55時間、シースルーバック、50m防水。価格未定/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000

Trend2 タイムオンリー

時計界のアカデミー賞、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)に昨年から新設された部門が「タイムオンリー」だ。日付さえ持たない3針か2針で、素材はゴールドやプラチナも可というノミネート基準は、ファッションにおけるクワイエットラグジュアリー、そしてここ数年続いているドレスウォッチ再評価の流れともつながるだろう。今年は特徴的なカラーリングやダイヤルデザインを、タイムオンリーにすることで、さらに引き立たせているような新作も目立った。ただのシンプルウォッチにとどまらず、各ブランドの個性と魅力をストレートに反映するモデルが多く顔を揃えている。

H.モーザー「エンデバー・スモール セコンド コンセプト ポップ」

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エンデバー・スモール セコンド コンセプト ポップ/昨年GPHGでタイムオンリー部門を受賞したH.モーザーの新作。ビルマ翡翠×ピンクオパールなど2色を組みわせた6種のカラバリが揃う。自動巻き、SSケース、ケース径38㎜、パワーリザーブ約3日間、シースルーバック、レザーストラップ、日常生活防水、世界限定28本。¥5,676,000(予定価格)/エグゼス TEL:03-6274-6120

ショパール「アルパイン イーグル 41 XP CS プラチナ」

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アルパイン イーグル 41 XP CS プラチナ/3針ノンデイトは、アルプス氷河から着想を得た“シェイド・オブ・アイス”ブルーのグラデーションがより映える。自動巻き、PTケース&ブレスレット、ケース径41㎜、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、100m防水、ブティック限定。¥16,654,000/ショパール ジャパン プレス TEL:03-5524-8922

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Trend3 ゴールドの多連ブレスレット

近年、ケースやムーブメントの進化が成熟を迎える中、各ブランドがブレスレットの開発にも注力している。今年の注目は、ミラネーゼやジュビリーなど多連構造のゴールド製ブレスレットだ。ゴールドの多連は優美な煌めきを生み、エレガントさとジュエリー的な魅力を添えてくれる。また、可動域の広さによるしなやかな装着感も魅力。そして史上最高値を更新し続けている金価格も、そのステイタスを裏打ちする。ただでさえ加工難度の高いゴールドを複雑な多連ブレスレットに仕上げるには高度な技術が不可欠であり、名門メゾンにしか許されない最高峰の領域と言えるだろう。

ロレックス「パーペチュアル 1908」

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パーペチュアル 1908/「1908」モデル専用で登場した7列リンクの“セッティモブレスレット”。ややカーブするリンクは全面ポリッシュ仕上げで、絶妙な輝きを見せる。自動巻き、18KYGケース&ブレスレット、ケース径39㎜、パワーリザーブ約66時間、シースルーバック、50m防水。¥5,273,400/日本ロレックス TEL:0120-929-570

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート スモールセコンド」

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レベルソ・トリビュート スモールセコンド/ケースと同素材のゴールドのミラネーゼメッシュブレスレットが、グレイン仕上げのダイヤルとの絶妙な相性でエレガンスを醸す。サイズの微調整が可能なクラスプも装備。手巻き、18KPGケース&ブレスレット、ケースサイズ45.6×27.4㎜、パワーリザーブ約42時間、3気圧防水。¥6,424,000/ジャガー・ルクルト TEL:0120-79-1833

A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス ハニーゴールド」

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オデュッセウス ハニーゴールド/初採用されたブランド独自の素材、ハニーゴールド製の5連ブレスレットは、上面をサテンで仕上げた渋い輝きを放つ。自動巻き、18Kハニーゴールドケース&ブレスレット、ケース径40.5㎜、パワーリザーブ約50時間、シースルーバック、12気圧防水、世界限定100本。価格未定/A.ランゲ&ゾーネ TEL:0120-23-1845

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Trend4 モータースポーツ

今年はモータースポーツに関連する腕時計が熱い年だ。皮切りとなったのはタグ・ホイヤーのF1オフィシャルタイムキーパーへの復帰だろう。ブランドのアイコンでありカーレース由来の「フォーミュラ1」「モナコ」の新作が相次いで発表。さらに盛り上がりに拍車をかけるのが、劇場公開中の映画『F1/エフワン』だ。ブラッド・ピットがレーシングドライバー役で主演する超話題作にIWCが架空のF1チーム「APXGP」のスポンサーとして登場し、キャストたちが腕時計を着用。さらに関連モデルもリリースされる。サーキットの熱狂が時計界と見事に呼応する、歴史的な一年になりそうだ。

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ ストップウォッチ」

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タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ ストップウォッチ/1960〜70年代のホイヤー製ストップウォッチをオマージュ。自動巻き、チタン(DLC加工)ケース、ケース径39㎜、パワーリザーブ約40時間、シースルーバック、カーフストラップ、100m防水、世界限定970本。¥1,474,000/LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー TEL:03-5635-7030

チューダー「ブラックベイ クロノ“カーボン 25”」

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ブラックベイ クロノ“カーボン 25”/サポートするF1チーム、ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズのマシンカラーを反映したデザイン。ダイヤルカラーは“レーシングホワイト”。自動巻き、カーボンケース、ケース径42㎜、パワーリザーブ約70時間、レザー×ラバーストラップ、200m防水、世界限定2025本。¥1,037,300/日本ロレックス/チューダー TEL:0120-929-570

IWC「パイロット ・ウォッチ・クロノグラフ 41 APXGP」

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パイロット ・ウォッチ・クロノグラフ 41 APXGP/映画『F1』では架空のF1チーム「APXGP」の公式スポンサーとしてIWCが登場。このチームにオマージュを捧げ、レーシングカーとチームカラーから着想を得たデザインを採用した。自動巻き、SSケース、ケース径41㎜、パワーリザーブ約46時間、シースルーバック、ラバーストラップ、10気圧防水。¥1,052,700/IWC TEL:0120-05-1868

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並木浩一●時計ジャーナリスト。1961年、神奈川県生まれ。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。著書に『ロレックスが買えない。』。GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。
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